室町時代の豆腐田楽にルーツを持ち江戸時代にはファストフードとして庶民に親しまれてきた「おでん」。今も昔も暖簾をくぐると“だし”の香がふわり漂う──そんな酒場で気取らぬ一杯を。
観音裏で110年。琥珀色の“だし”が染み入る

訪日外国人で賑わう浅草寺から徒歩で7〜8分。観音裏と呼ばれる一角で、石畳のアプローチの先にお多福が染め抜かれた暖簾の揺れるのが『浅草おでん大多福(おたふく)』だ。大正4年(1915)の創業で、初代が大阪・法善寺の境内にあったおでん屋から暖簾分けを許され、浅草に店を構えたという。
「外国人のお客様も増えていますが、浅草観光のついでに立ち寄るというより、うちを目当てに浅草までいらっしゃっているように思います」と話すのは、6代目主人の舩大工海斗(ふなだいくかいと)さん(31歳)。
関西のおでんよりやや色が濃い“おでんだし”は、毎朝、昆布と鰹節で大鍋に取っただしに、薄口醬油を加えて味を調える。まずひと口飲むと、ふくよかでコクがある味わい。その旨みが最もよくわかるおでん種を海斗さんに選んでもらうと、大根、こんにゃく、焼き豆腐の3品が皿に並んだ。

おでん種は約40種。イワシから作るつみれ、エビばくだんといった練り物は自家製、豆腐、こんにゃく、東京のおでんに欠かせないちくわぶは、代々付き合いがある地元の商店に誂えてもらっている。

ハイボールと味わう
常連客が好んで飲む日本酒が、創業時から提供している灘の銘酒「白鶴 樽酒」で、季節によって冷や、ぬる燗、熱燗など温度を変えて楽しんでいるのだとか。だが6年前、海斗さんが店を任されるようになってからは、日本酒の銘柄が増え、積極的にウイスキーやワインも置くようになった。
「修業をしていた日本料理店で日本酒と料理の組み合わせについて学び、おでんに合う銘柄を揃えて置くようになりました。新しい試みで国産ウイスキーもお出ししていますので、ぜひ試していただきたいです」とすすめてくれたのが、瀬戸内海に近い広島・桜尾蒸留所の「桜尾」。ウイスキーが持つほのかなミネラル感が、だしの旨みを引き立てるという。

一品料理も豊富で、甘辛く炊いた「牛すじ煮込み」や「自家製塩辛」など、酒に合うつまみを選ぶのも楽しみ。おでんはすべてテイクアウト可能。陶器製のタコ壺に詰めて持ち帰り、我が家で味わうもよし。親しい人への手土産にすれば、喜ばれるに違いない。
代々、受け継がれてきただしの味を守りながら、新たな試みを続ける老舗から目が離せない。

浅草おでん大多福

東京都台東区千束1-6-2 NS言問ビル1階
電話:03・3871・2521
営業時間:16時〜22時(最終注文21時)
定休日:水曜
交通:つくばエクスプレス線浅草駅より徒歩約5分
●価格は変更の予定あり。
取材・文/永田さち子 撮影/齋藤 明

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