文/印南敦史

写真はイメージです。

私にも経験があるが、ペットとの別れはつらいものだ。ペットに縁のない人には実感しづらいことかもしれないし、「人との別れにくらべたら……」という感じ方も理解できないわけではない。

だが飼い主にとって、ペットは間違いなく家族なのだ。犬猫であろうが小鳥であろうが、人との差などないのである。

だからペットが旅立てばショックも大きいわけだが、深刻な問題がもうひとつある。自分が先に死んでしまったとしたら、残されたペットをどうすればいいかということだ。

死は前触れなく訪れるだけに、もしものときのために策を講じておくべき。

そこで参考にしたいのが、『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(奥田順之 著、ワニブックス)。現役の獣医師が、“ペット後見”について解説した書籍である。

ペット後見とは、最後まで飼育の責任を果たす取り組みの総称です。飼い主が入院や死亡などにより、ペットを飼えなくなる事態に備え、飼育費用、飼育場所、支援者をあらかじめコーディネートしておくことを指します。(本書62ページより)

著者が主宰するNPO法人「人と動物の共生センター」による造語だそうだが、最近では行政機関を筆頭に広く一般にもこの名称が使われ始めているという。

支援の形もさまざまだが、共通しているのは(1)「飼育場所(引き受け手)を決める」(2)「飼育費用を残す方法を決める」(3)「急な入院時のサポートなど万が一の見守り体制を決める」の3点。

この3つが揃って初めて、飼い主の身になにかあってもペットが行き場を失わずに済むわけだ。

ここでは飼育場所(引き受け手)に焦点を当ててみることにしよう。

引き受け手として最初に考えるべき候補は、家族や親族ということになるだろう。身近な存在なので安心でき、飼育費用に関しても子や孫であれば心配も少ないからだ。子や孫はいるがペット飼育については頼れないという場合は、兄弟姉妹や甥姪に頼るという考えもある。

私が相談を受けた中でも、家族や親族に相談したらすんなり解決したという事例が少なくありません。飼い主さん本人は、家族や親族に迷惑をかけたくないと思って当団体に連絡をしてくれます。しかし私たちとしても、もし家族や親族が対応してくれるならそのほうがよいのです。(本書66ページより)

まだ若い孫に重荷を背負わせたくない、住んでいる場所が遠い、普段の交流が少ないなど、さまざまな理由で遠慮してしまいがちかもしれない。だが、もしかしたら家族や親族は、なんとか力になれないかと思っているかもしれない。したがって、まずは勇気を出して相談してみるべきなのだ。

家族に次いで検討すべき相手としては、友人が考えられるだろう。ただし同年代よりも、できれば20歳くらい年下がいいようだ。同年代なら自分と同じ時間的制限を抱えていることになるのだから、当然といえば当然である。

飼育費用については、兄弟姉妹、甥姪と同じように、遺言、生前贈与、死因贈与などの形できちんと相手に渡るように準備をしておく必要があるという。

やってはいけないのは、「もしもの時はお願いね」と口約束だけすることです。これでは、いざとなった時にその友人もどうしてよいかがわかりません。引き取ってよいのかダメなのか、飼育費用はどうなるのかなど、わからないまま進むことになります。また、友人は相続人ではないので、本来ペットや飼育費用を取得すべき相続人や相続財産清算人等とトラブルになる可能性もあります。(本書67ページより)

遺言や贈与の形で飼育費を残す形をつくることには、「引き取ってほしい」という意志を明確にするという意味もある。契約を交わして書類をつくり、公正証書にすることにより、引き取り手となる友人に対して「どんなときに、どう動いてほしいのか」をしっかり伝えることができるのだ。

また、ペットの病歴や特徴、飼育場の注意点など、引き受け手と情報共有する機会にもなるだろう。そのため、日ごろからワクチンの接種歴や検査結果がわかるファイルを作成しておき、情報をまとめておくことが大切なのである。

ペットの飼育をお願いできるレベルの友人はかなり限られると思います。引き受け手になってくれるような友人は、犬友、猫友、ウサギ友など、同じ種を飼育している場合が多いようです。同じ犬種・猫種などより深い共通性があれば、引き受け手になってくれる確率は高くなります。そうした友人を作るためにも、普段から犬種や猫種のコミュニティに参加して、情報交換をしておくとよいでしょう。(本書68ページより)

引き受け手としては他にも、ペットホテルやサロン、老犬・老猫ホーム、動物愛護団体などもある。

こうして確認してみるとわかるように、人間にもペットにも、手続き等において共通する部分は意外と多いのだ。ペットの死に際してはつい感情的な部分が大きくなってしまうものだが、細かく準備をしておくことは非常に大切ではないだろうか。

いずれにしても、ペットが自分の死後も生きていけるように、家族として責任を全うしたいものである。

『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』
奥田順之 著
1760円
ワニブックス

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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