今の時代、サライ世代にとって「生きやすい世の中か?」と問われたら、決して「生きやすい」とは答えられないように思います。それどころか、次第に「生き辛さ」が増しているようにも感じられます。その理由の一つが、社会通念の変化ではなかろうか? と思うのです。

それは、親や先輩、師と仰いだ人たちから指導を受け、身につけた「常識」が大きく変移しているからではないのか? 別の言い方をするならば、社会を円滑に生きるための「世渡りの術」が、機能しなくなってしまった感じがいたします。

しかし、私たちが大きな変移と感じていることも、百年、二百年という単位で見れば、意外と小さな変化なのかもしれません。そのことは、今を生きる人々へ影響を与え続ける先人たちの名言や金言が物語っているように思います。

今回の座右の銘にしたい言葉は「郷に入っては郷に従え(ごうにいってはごうにしたがえ) 」 です。

目次
「郷に入っては郷に従え」の意味
「郷に入っては郷に従え」の由来
「郷に入っては郷に従え」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に

「郷に入っては郷に従え」の意味

「郷に入っては郷に従え」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「その土地に住むにはそこの風俗・習慣に従うのが処世の術である」とあります。これは、「新しい土地や環境、コミュニティに入った際には、そこの風習や規則、人々の考え方などを尊重し、それに合わせて行動するのが賢明である」という教えです。

大切なのは、この言葉が単なる「服従」や「迎合」を勧めているわけではない、ということです。むやみに反発したり、自分のやり方だけを押し通したりするのではなく、まずは相手の立場や状況を理解しようと努める。その上で、調和を保ちながら、自分自身もその「郷」の一員として心地よく過ごせる道を探る。それが、このことわざの持つ深い意味合いなのではないでしょうか。

「郷に入っては郷に従え」の由来

この言葉の起源は諸説ありますが中国語のことわざ「入郷随俗(にゅうきょうずいぞく)」が原形といわれています。「郷に入っては郷に従え」は、禅宗の歴史書『五灯会元』にも記述されており、中世日本の初等教育用書籍『童子教』にも同様の表現が見られます。

日本では古くから平安時代に貴族社会や武家社会でこの思想が根付きました。外部から来た人が自分の考えを押し通すのではなく、まずはその土地や集団が大切にする風習や価値観に敬意を表し、順応することで人間関係の円滑化が図れたのです。

また、この言葉は英語の「When in Rome, do as the Romans do(ローマではローマ人のようにせよ)」とほぼ同じ意味を持ち、世界共通の知恵ともいえます。

「郷に入っては郷に従え」を座右の銘としてスピーチするなら

「郷に入っては郷に従え」を座右の銘としてスピーチするときには、自身の具体的なエピソードを交えながら語ると言葉に実感がこもり、聞き手の共感を得やすくなるでしょう。以下に「郷に入っては郷に従え」を取り入れたスピーチの例をあげます。

新しい土地で再出発するときのスピーチ例

私の座右の銘は、「郷に入っては郷に従え」です。

長年勤めた会社を退職し、昨年からこちらの地域でお世話になっております。最初は、慣れない環境や新しい方々との交流に、少々戸惑いもございました。そんな時、ふと心に浮かんだのがこの言葉です。

まずは、この土地の風習や、皆さまが大切にされてきたことを謙虚に学ばせていただこうと決めました。地域の行事にも積極的に参加し、皆さまのお話に耳を傾けるうちに、少しずつではありますが、この『郷』の温かさや素晴らしさを肌で感じられるようになってまいりました。

もちろん、これまでの人生で培ってきた経験や知識も、私にとっては大切な宝物です。しかし、それらを押し付けるのではなく、この新しい『郷』の中で、どのように活かせるのかを考えるようになりました。

「郷に入っては郷に従え」。この言葉は、私に新しい環境への適応力だけでなく、異なる価値観を持つ方々を尊重し、共に生きる喜びを教えてくれました。これからもこの言葉を胸に、皆さまとのご縁を大切にしながら、この地での暮らしを豊かなものにしていきたいと願っております。

最後に

「郷に入っては郷に従え」ということわざは、変化の激しい現代社会を生きるサライ世代にとって、決して古びることのない、むしろ今こそ輝きを増す座右の銘にしたい言葉と言えるでしょう。それは、自分の経験や価値観を否定することではありません。むしろ、豊かな経験という確かな羅針盤を手にしながらも、新しい海図を柔軟に読み解き、未知の航海を楽しむ勇気と知恵を与えてくれる言葉なのです。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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