文/晏生莉衣

英語の勉強は年齢を問わず、人気の学びです。留学したい。キャリアアップにつなげたい。海外旅行をもっと楽しみたい。学ぶ動機はさまざまですが、TOEICやTOEFLのハイスコアや英検合格という具体的な目標を立てて勉強に励んでいる方も多いですね。

ところが、こうしたテストで優秀な成績を収めたという人であっても、英語のとてもベーシックな部分で間違えてしまうことが少なくありません。

日本人がはまりがちな英語の落とし穴とはどんなことでしょうか。まず、簡単なクイズを試してみましょう。

クイズでチェック。どれが正解?

【Q1】「私の机の上に本があります」を英語にしてください。“There ~”という表現を使いましょう。

英語にしたら、以下に示す回答例と照らし合わせてみてください。どの回答と同じになりましたか?

A. There is book on my desk.  
B. There is a book on my desk.
C. There are books on my desk.
D. There is the book on my desk.

正解はB、またはCです。

<解説> 日本語では示されていませんが、本が1冊あるならB、複数あるならCです。日本語の例文中、2冊、3冊というように明示されていれば、two books, three booksと数を入れればOKです。

では、次のクイズです。

【Q2】「私はりんごが好きです」を英語にしてください。

英文にしたら、以下の回答例と照らし合わせてみましょう。どれと同じになりましたか?

A. I like apple.
B. I like an apple.
C. I like apples.
D. I like the apple.

正解は、Cです

<解説> 英語では、一般的な好みを述べる場合は単数形ではなく複数形を使います。回答Bだと「りんごが1つ好き」という意味になるので不自然で、英語ネイティヴの人を「?」とさせる、伝わりにくい残念な英語になってしまいます。

ではもう1つ、クイズに答えてみましょう。

Q3いちごはおいしい」を英語にしてください。

以下が回答例です。正しいのはどれでしょう。

A. Strawberry is delicious.
B. A strawberry is delicious.
C. Strawberries are delicious.
D. The strawberry is delicious.

正解は、Cです

<解説> Q2の例文のような一般的な好みだけでなく、一般的な話として言ったり、全体的な特徴を述べたりする場合も、複数形を使うのが自然な英語の形です。

間違いはなぜ起こるのか

いかがでしたでしょうか? 

どのクイズでも、回答Aと同じような英文を作ってしまった方が多いかもしれません。

実は、これは日本人にとてもよくある間違いで 、前回のレッスン(日本では問題ない「トランプ」大統領と「ネガティヴトランスファーの壁」 https://serai.jp/living/1215357)で取り上げた “negative transfer”(ネガティヴトランスファー)が関係しています。

ネガティヴトランスファーはいろいろな状況で生じる現象ですが、語学学習の場合、母語の構造や特徴が無意識のうちに外国語の習得に影響し、正しい学びを妨げて、ミスを生じさせてしまうというものです。

日本語ネイティヴの人は気にしたこともないかもしれませんが、日本語は、単数と複数の区別をそれほど意識しない言語で、この特徴が英語の間違いを引き起こしてしまう要因になっています。

クイズを振り返ってみると、Q1の「机の上に本がある」という日本語の例文は、1冊あっても数冊あっても同じ文章をそのまま使えます。話し手は、1冊あるのか数冊あるのか、特に言及する必要はありません。

それに対し、英語は単数か複数か、文法上、明確に区別します。数によって名詞の形が変わり、動詞も変わるので、同じ文章にはなりません。

「日本語脳」が忘れてしまうのは……

このように、日本語という母語が知らず知らずに英語学習の邪魔をしているのですが、そのことになかなか気づきにくいというのがネガティヴトランファーのトラップでもあります。

特に問題となるのが、英語には不可欠な冠詞です。

英語では、可算名詞と言われる数えられる名詞の単数形の前には冠詞(a, an, the)を使います。クイズに出てきた “apple” は母音から始まるので、不定冠詞はaではなくan。複数形にするには名詞の語尾に “s” を付けるのが基本です。

こんなことは英語初心者レベルの文法だから当然知っている、と思われるかもしれません。

しかし、日本語にはこうした冠詞はないので、いざ、英語を書く、話すという段階になると、クイズの回答Aのような冠詞が抜けた英文を作ってしまいがちです。日本語脳の持ち主にとてもよくみられるネガティヴトランスファーといえる現象です。

【別の壁1】単数か、複数か

冠詞以外にも、名詞の単数、複数の使い分けは、日本語脳が苦手とするものです。

■ “I like apples”  
■ “Strawberries are delicious.” 

のように、一般的な好みを言うときや、一般的な意味や全体的な特徴として言うときは複数形を使うというのも日本語にはない文法ですから、正しい英語を使うためにはこうした表現のルールやフォーマットを知っておく必要があります。

ただし、“Strawberries are delicious.” の例文では、同じ意味でも回答Bの単数形でよいことがあります。

単数形でもよいのは、だれかに説明をしたり、例としてあげたりといった状況で使うケースです。たとえば、こどもに果物について教える目的で、いちごの絵や写真を見せながら、「これはいちご。とってもおいしいよ」などと話すときには、

 “A strawberry is delicious.” 

と、単数形を用いることが普通にあります。

【別の壁2】anとtheはどう使い分ける?

では、定冠詞 “the” が使われている回答Dはどうなのでしょうか。これは、各クイズの答えとしては不正解なのですが、英語としては問題なく使われる文章です。

the は名詞の意味を限定する働きを持つので、回答Dは、それぞれ、

■ “There is the book on my desk” =「私の机の上にその(あの)本があります」
■ “I like the apple” =「私はその(あの)りんごが好きなんです」
■ “The strawberry is delicious.” =「その(あの)いちごはおいしい」

という意味になります。

ここでのポイントは、the はどんな文脈で使われるのか、ということです。

話の中でこれらのものがすでに出てきていて、話し手がその特定のものを指して述べている場合や、話し手と聞き手の間になにを指しているかという共通認識ができているといった場合、 a (an) ではなくtheを使うという冠詞の使い分けをします。

同じ「りんご」でも、an apple the appleではニュアンスが異なるわけです冠詞自体は基礎英語の文法なのですが、冠詞の種類を正しく使い分けるには、単数、複数の使い分けと同様になかなかの高い壁となります。

練習問題にチャレンジ!

それでは、これまでのポイントに注意して、次の練習問題をやってみましょう。

◆◆ 正しいほうの英文を選んでください。◆◆ 

【問題1】
(イ) We like an old Japanese movie. 
(ロ) We like old Japanese movies.

【問題2】
(イ) My mother likes the cat.
(ロ) My mother likes a cat.

【問題3】
(イ) I bought onions yesterday. 
(ロ) I bought three onion yesterday. 

【問題4】
(イ) Walnut is good for health.
(ロ) Walnuts are good for health. 

【問題5】 (ヒント:ちょっとひっかけ問題)
(イ) I read a book last week.
(ロ) I read the book last week.

正解はこちらです。

【問題1】 (ロ) We like old Japanese movies. = 「私たちは古い日本映画が好き」
【問題2】 (イ) My mother likes the cat. = 「私の母はそのネコが好き」
【問題3】 (イ) I bought onions yesterday. = 「私は昨日、(複数個の)玉ねぎを買った」
【問題4】 (ロ) Walnuts are good for health. = 「くるみは健康によい」
【問題5】 どちらも正解 (イ)「先週、私は本を1冊読んだ。」  (ロ)「先週、私はその本を読んだ」

ネガティヴトランスファーを克服するには

実にやっかいなネガティヴトランスファーの壁ですが、乗り越えるためのこんな工夫があります。

◎ 文章化するとき、単数か複数かをしっかり意識する
英語が母語なら自然に使い分けができますが、日本語脳の持ち主はそうはいきませんから、名詞は単数形、複数形のどちらを使うのが正しいか、という点によく注意を払いながら英語を書いたり話したりすること。それだけでも、この壁は少しずつ低くなっていきます。単数の場合は冠詞も正しく付けることもセットで忘れずに。

◎ 日ごろから、英文を読むときには名詞の前後に注目する
英語の本やオンラインの英文記事を読んで勉強に役立てている方は、読む際に名詞の前後、特に、定冠詞と複数形に注目して読んでみてください。「なぜ、the が使われているのだろう?」「ここは複数形になっている」といった気づきをすることが大切です。

疑問点を自分でリサーチしたり、フレーズごと書き留めて覚えたりするのもよいですね。「こういう場合はtheを使う」「この表現はいつも複数形」というように、さらなる理解につながります。

こうした学習の積み重ねによって、使い分けのコツがだんだんとつかめるようになってきます。

* * *

単数か複数か、単数なら正しい冠詞はどれか。使い分けを間違えると、英語ネイティヴの人には変な英語に聞こえたり、通じなかったり、ということが起こってしまいます。英文のほんの小さな部分を占めるものですが、「伝わる英語」には重要な要素です。

今までは考えもしなかったけど、今回のレッスンで使い方に迷い始めてしまったという方もご安心ください。迷い始めたら、それはネガティヴトランスファー現象から抜け出して、正しい英語を使うための問題意識をしっかり持つようになったということです!

晏生莉衣(あんじょう まりい)
教育学博士。国際協力専門家として世界のあちらこちらで研究や支援活動に従事。国際教育や異文化理解に関する指導、コンサルタントを行うほか、平和を思索する執筆にも取り組む。著書に、日本の国際貢献を考察した『他国防衛ミッション』や、その続編でメジュゴリエの超自然現象からキリスト教の信仰を問う近著『聖母の平和と我らの戦争』。

 

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