鉄道、路線バス、旅客機そして旅客船など、公共交通機関の運転時刻をまとめた『JTB時刻表』。1925(大正14)年に鉄道省運輸局編纂『汽車時間表』として創刊されてから、今年で100年を迎える。経路がスマホで検索できる今でも、発売日の毎月20日前後には、書店の棚に『JTB時刻表』が平積みされている。本が売れない時代と言われるが、時刻表は年間約40万部が売れているという。「時刻表は読んでいて楽しい、情報の宝庫です」というのは、100周年を記念して刊行された書籍『時刻表大解剖』(JTBパブリッシング)の担当者・入江一也さん。ここでは、時刻表の魅力と、制作の裏側を深掘りしていく。
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時刻表は旅情をくすぐる“数字の塊”
――スマホを使えば最短ルートを検索できる時代ですが、『JTB時刻表』(以下・時刻表)を傍に、旅の計画を立てる人は多いです。
入江一也さん(以下・入江):JR・私鉄・バス・航空・船舶など、約900社の運行時刻を網羅しており、鉄道や鉄道旅に関する旬の話題の読み物ページも充実しています。旅情をくすぐる“数字の塊”が時刻表なのです。
時刻表の利点は、巻頭に日本全土の索引地図があり、路線や駅も探しやすいこと。地図を見ていると“ここまで行くなら、ついでにあそこにも行こう”というように、旅のプランが膨らんでいきます。また『みどりの窓口』の有無、駅弁を販売している駅がどこかなど、一目でわかるようになっているのです。
この索引地図が特徴的な形をしているのは、すべての駅を載せるため。駅名はユニバーサルデザイン書体で表示してあり、読みやすいよう工夫がされています。
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――楽しい旅行(移動)をサポートしたいという想いが詰まっています。
入江:はい。この読者ファースト主義は、1925(大正14)年の創刊号からなのです。JTBの前身である日本旅行文化協会が発行した『汽車時間表』を見ると、漢数字が主流だった当時としては珍しく算用数字を採用し、読みやすく仕上げています。さらに、弁当販売駅・赤帽所在駅などを示す記号を導入しているのも画期的です。
時刻表の歴史をざっと紹介すると、日本初の時刻表は、1872(明治5)年の新橋~横浜間の鉄道開通時に駅構内に張り出された非売品の「鉄道列車出発時刻及賃金表」です。
市販の時刻表の始まりは、1873(明治6)年に、新橋~横浜間の各駅で販売された時刻表。その後、1891(明治24)年に上野駅~青森駅間が全通したり、1914(大正3)年に東京駅が開業し東海道本線の起点となるなどに伴い、路線別に時刻表が作られていきます。いずれも実用第一主義ともいえる内容でした。
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入江:私たちの時刻表は、旅(移動)に寄り添っています。万博などのイベントがあれば、会場の地図を掲載し、お花見の季節には、名所を紹介するなど、“かゆいところに手がとどく”情報提供をし続けてきたのです。
【時刻表編集部に潜入! “分厚い数字の塊”はどのように作られている? 次ページに続きます】
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