創刊100年、年間約40万部が売れる『JTB時刻表』編集部に潜入！「読者ファースト」の時刻表の作り方

トリプルチェック、大学の鉄道研究会も動員し作られる時刻表

――戦後になり、鉄道の路線や本数も増加しました。それに伴い、時刻表が厚くなっていったことがわかります。

入江：読み物記事が増え、きっぷの紹介ページなどもでき、現在につながる内容の基礎が固まったのは、1960年代です。高度経済成長で出張する人も増えましたし、戦後の生活が豊かになり、レジャーブームが起こりました。旅の計画を立てるときに、時刻表は欠かせませんでした。

そのために最も大切なのは正確であること。時刻表は、900社にもおよぶ交通各社から集めた情報を掲載しています。今はメールで受け取っていますが、かつては、それぞれの会社から郵送されたり、国鉄・JRには編集部員がタイムテーブルを取りに行っていたのです。

個別の担当はエリアではなく、路線別に“◯◯本線と支線のまとまり”というように振り分けられています。路線の距離や列車本数ばかりでなく、列車種別が複数で追い抜きがあったり、臨時列車や時刻変更が多かったりすると複雑になるので、ベテランが担当することが多いです。最も難しいのは、新幹線や、東北の田沢湖線あたりでしょうか。
割り振りは、“山陽本線　岡山から西は◯◯さん”というように、行われています。

各社から来た情報を、前号と付け合わせて、修正点をチェックしていく。とにかく、絶対に間違えてはいけないので、校了日の編集部の緊張感はものすごいです。

――900社から来る内容を、たった24人で確認して、ミスなく仕上げる。時間や運行状況がガラリと変わるダイヤ改正のときはどうするのでしょう。

入江：毎年、３月のダイヤ改正は、時間の変更だけでなく、列車の増減、開業や廃止があるなど、大幅に内容が変わります。そういうときは、大学の鉄道研究会の学生さんに手伝ってもらいます。データの作り直しになりますから、完璧を期して仕上げていくのです。

本が売れない時代に年間約40万部、「時刻表鉄」とは何か

――今、時刻表は毎月４万部売れています。時刻表を読んで楽しむ“時刻表鉄”からも、支持されていると聞きました。“鉄”とは鉄道好きな人の属性を指す言葉で。車両の研究をする人を“車両鉄”、列車の撮影を行う“撮り鉄”、鉄道に乗る人を“乗り鉄”など、多くの“鉄”がいます。

入江：『時刻表２万キロ』で知られる紀行作家・宮脇俊三（1926〈大正15〉―2003〈平成15〉年）さんは時刻表鉄の乗り鉄で、“鉄道の『時刻表』にも、愛読者がいる”と言いました。私たちの時刻表は、旅情を掻き立てる内容ということもあり、時刻表鉄の方に選んでいただいていると感じます。
また、ここまで飛行機で行って、ここからは鉄道で、船に乗って、ロープウェイに乗ろうというようなコースが立てられるのは時刻表ならでは。

そんな時刻表＆鉄道ファンのために私たちは『JTB時刻表ファン倶楽部』をスタートしました。私自身も“鉄”であり、編集部も“鉄分多め”の人だらけ。詳しい人も初心者の方も楽しめる、「100周年記念号に名前を載せよう」、「JTB時刻表マスター認定試験」など、参加型の企画を用意しています。

鉄道を愛する人が作る『JTB時刻表』。『時刻表大解剖』を編集した入江さんも鉄道を愛し、半世紀以上だという。後編では入江さんの鉄道遍歴と、時刻表のさらに深い内容について紹介していく。

⚫︎お話を伺ったのは……JTBパブリッシング　時刻表編集部担当マネージャー入江一也さん

『時刻表大解剖』　JTB時刻表編集部編著　1760円　JTBパブリッシング