世界遺産の総数をごぞんじでしょうか? 2026年5月時点で合計1,248件(文化遺産972件、自然遺産235件、複合遺産41件)となっています。円熟味を増したサライ世代にもなると、世界遺産について最低限の知識は身に付けておきたいものです。

そんなときに役立つのが、宮澤光監修『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)です。いわゆる観光ガイドではなく、代表的な世界遺産について歴史的な成り立ちや登録にいたった背景などを分かりやすく解き明かしてくれます。

今回は、『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)より、「アテネのアクロポリス」&「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」を取り上げます。

アテネのアクロポリス 世界一有名な神殿、いまだ修復中!

紀元前750 年頃のギリシャでは、各地でアクロポリス(高い丘の上の都市)を中心にポリス(都市国家)が形成され、互いに競い合いました。中でも古代ギリシャを代表するポリスがアテネで、その中心にあるのが「アテネのアクロポリス」です。市街地を見下ろす高さ約70mの丘に築かれ、断崖に守られた天然の要塞としても優れていました。

世界遺産には、アテネの守護神アテナを祀るパルテノン神殿、その向かいに建つ6人の乙女の柱(カリアティード)が目を引くエレクティオン神殿などを含むアクロポリスがエリアで登録されています。パルテノン神殿は、ペルシア戦争に勝利した政治家ペリクレスの主導で、紀元前5世紀に建設されました。大彫刻家フェイディアスが総監督を
務め、壮麗な空間を追求しました。柱の中央をわずかに膨らませ、安定感を与えるエンタシス、ペディメント(屋根の飾り)のレリーフ、神殿の各所に用いられた黄金比など、随所にギリシャ人の美意識が凝縮されています。しかし、1687年にヴェネツィア軍の砲弾で大破したため、19世紀から現在に至るまで修復作業が続いています。また、出
土品の中には海外に流出してしまったものもあり、パルテノン神殿の彫刻やエレクティオン神殿のカリアティードの一部は、現在も大英博物館に所蔵されています。

【DATE】アテネのアクロポリス
保有国:ギリシャ共和国
登録年:1987年
登録基準:人類の創造的資質を示す遺産/文化の価値観の相互交流を示す遺産/文化的伝統や文明の存在に関する
証拠を示す遺産/建築様式や建築技術、科学技術の発展段階を示す遺産/人類の歴史上の出来事や伝統、宗教、芸術などと強く結び付く遺産

ギリシャ神話が息づく街

神話では、海神ポセイドンと女神アテナが、この地の守護神の座を争った物語が伝わります。暑いこの地方に住む市民を喜ばせようと、ポセイドンは海水が湧く泉を、アテナはオリーブの樹を贈りました。人々は飲めない海水より、実が食べられて木陰にもなるオリーブを選び、女神アテナにちなんで、この地をアテネと名付けました。

対話が制度に…民主政はアゴラから生まれた

古代アゴラ遺跡群

アテネのアクロポリス北西部には「アゴラ」と呼ばれる広場があり、哲学者のソクラテスやプラトンらが議論を交わしていました。対話で物事を解決していく「民主政」は、この地で生まれたのです。

ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献 大陸をまたぐ世界遺産

国立西洋美術館

私たちが日々、目にしている建築物には、時代や国を越えて共有される「近代の設計思想」が随所に反映されています。ル・コルビュジエは、そうした近代建築の基礎となる重要な概念を世界に広めた建築家のひとりです。彼が1959年に完成させた東京・上野の国立西洋美術館は、「ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献」のひとつとして世界遺産に登録されています。この世界遺産の特徴は、日本を含む3大陸7カ国に点在する資産をひとつの資産群と捉え、国境だけでなく、大陸もまたぐ世界初の「トランス・コンチネンタル・サイト」であることです。

世界遺産に登録されている17の構成資産は、近代建築の概念が世界規模で広がり、各地で実践されたことを証明するものとして評価されています。国立西洋美術館の魅力は、建築の考え方そのものが明快に示されている点にあります。1階を柱で持ち上げて余白を生むピロティ、空間に変化や広がりを与える高さの異なる天井、階段とは異なり視点の変化をゆっくり味わいながら移動できるスロープなど、合理性と機能性を追求した近代建築の思想が随所に読み取れます。国立西洋美術館は、近代建築の思想を見るだけでなく「体感できる」世界遺産といえます。

【DATE】ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献
保有国:アルゼンチン共和国/ベルギー王国/フランス共和国/ドイツ連邦共和国/インド/日本/スイス連邦
登録年:2016年
登録基準:人類の創造的資質を示す遺産/文化の価値観の相互交流を示す遺産/人類の歴史上の出来事や伝統、宗教、芸術などと強く結び付く遺産

ル・コルビュジエってどんな人?

ル・コルビュジエは雑誌に寄稿していた際のペンネームで、本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリ。
1887年にスイスで生まれ、パリを拠点に活躍した20世紀を代表する建築家です。「近代建築の五原則」や、床スラ
ブ・柱・階段を基本とする「ドミノ・システム」、身長183㎝を基準にした独自の尺度「モデュロール」など、重要な概念を次々に打ち出しました。

その他の構成資産

【フランス】
ラ・ロッシュとジャンヌレ邸、シテ・フリュージェ、サヴォワ邸と庭師小屋、ポルト・モリトーの集合住宅、マルセイユのユニテ・ダビタシオン、サン・ディエの工場、ノートル・ダム・デュ・オ礼拝堂、サント・マリー・ドゥ・ラ・トゥーレット修道院、フィルミニ・ヴェールの身体と精神のレクリエーション・センター

【スイス】
レマン湖畔の小さな家、イムーブル・クラルテ

【ドイツ】
ヴァンセイホフ・ジードルングの住宅

【ベルギー】
ギエット邸

【アルゼンチン】
クルチェット邸

【インド】
チャンディガールのキャピトル・コンプレックス

*  *  *

 眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産
監修/宮澤光
日本文芸社 1,089円(税込)

宮澤光(みやざわ・ひかる)
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員。北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。跡見学園女子大学非常勤講師。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、『チコちゃんに叱られる!』(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

※『眠れなくなるほど面白い 図解 世界遺産』(日本文芸社)より、一部を抜粋してご紹介しています。

写真/写真AC イラスト/どくだみ三銃士

 

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