夫を突然亡くしたことにより、ワーキングマザーとして仕事と子育てを両立し、二人のお子さんを東大現役合格に導いた入江のぶこさん。その子育ての目標は「生き抜く力を持った“自立した人間”に育てること」ただひとつだったと言います。
自立した人間になるためには、自分で考える力や応用する力などの“人間力”が必要です。“人間力”は幼い頃から“考える訓練”を重ねることによって、少しずつ身に着くと考えていた入江さんは、子どもたちにたくさんの学びの機会を与えていました。
今回は、入江のぶこさんの著書『自ら学ぶ子どもに育てる』から、そうした“考える訓練”にもなる日記を書くことについてご紹介します。
文/入江のぶこ
日記は子どもに“成功体験”を与える良い機会となる
幼い頃、私は父から絵や音楽や文章といった文化・芸術について、さまざまなことを教わりました。ロートレック展に連れて行ってもらった後に、「一番好きだった絵を思い出して描いてごらん」と言われ、うろ覚えで描いたものを父が添削してくれたこともあります。
そんな父がひとつだけ私に日課として行なわせていたのが、「日記を書くこと」。とても優しい父でしたが、日記についてはこだわりがあったようで、「今日も何もなかった」とやる気のない文を書いたときには、すごく怒られたことを覚えています。
偶然ですが、夫も幼い頃に日記をつけていた思い出があったので、長男の哲朗には5歳になる前から日記を書かせていました。
海外暮らしが長かったため、哲朗の日本語が心配で始めたという理由もありますが、彼が日記を書く間、夫や私がつきっきりで見てあげ、完成したものを添削して「ここはこう書いたほうがいいんじゃない? どう思う?」と、本人に考える習慣をつけさせる目的もありました。
特に上手に書けたときは、花丸をつけて大げさなくらい褒めてあげるようにしていました。“小さな成功体験”を積み上げていくことは、子どもの成長には欠かせません。毎日の日課である日記は、子どもに成功体験を与え、自信をつけさせる良い機会にもなるのです。
日記は多くの“学び”を創出する
日記には、特別なことを書かせる必要はありません。その日にあったこと・思ったこと・気づいたことを考え、書く。それだけです。自分の一日を振り返り、自分の言葉として書くことが、考える力を養っていくのです。
子どもが日記を書いている間は、可能であればつきっきりで見てあげてください。子どもと一緒に一日を振り返る時間は、親にとっても有意義なものとなるでしょう。なかなか筆が進まない子どもにヒントや助け船を出すことで、「日記=嫌なこと・辛いこと」と子どもが思い込まないように導いてあげることも大切です。
哲朗は幼い頃をカイロで過ごしていたので、日々それなりに発見や気づきがあったようです。家族でピラミッドを見に行ったり、夫と砂漠でキャンプをした日などは特に楽しそうに、生き生きと日記を書いていたのを覚えています。
そういったときの日記は、おのずと内容も良くなりますから、大きな花丸をあげて、たくさん褒めるようにしていました。私も父に日記を褒められたときはすごく嬉しかったので、息子も同じような気持ちだったのではないかと思います。
一方で、適当な日記を書いて父に怒られた私のように、哲朗も夫にひどく怒られたことがありました。
あまりにもやる気がない様子で日記帳に落書きをしている哲朗を見た夫は、「そんなことをやっているんだったら、家から放り出すぞ!」と玄関まで引きずっていったのです。哲朗は号泣していましたが、「自分の態度が悪いから怒られている」とわかっていたのでしょう。文句を言ったり、抗議するようなことはありませんでした。そこでもまたひとつ、哲朗は学びの機会を得たのだと思います。
ノートとペンさえあればすぐに始められる日記は、このように多くのものを親と子どもにもたらしてくれます。たかが日記、されど日記。“自分で考えられる子ども”を育てるために、今日から始めてみてはいかがでしょうか。
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『自ら学ぶ子どもに育てる』(入江のぶこ 著)
あさ出版
入江のぶこ(いりえ・のぶこ)
1962年、東京都新宿区生まれ。幼稚園から大学まで成城学園で教育を受ける。大学生時代にフジテレビ「FNNスピーク」でお天気お姉さんを務める。卒業後、フジテレビ報道記者の入江敏彦氏と結婚。カイロ支局長となった入江氏と長男と共にカイロへ移住。イスラエルで次男出産。1994年12月ルワンダ難民取材のためにチャーターした小型飛行機が墜落し、乗っていた入江氏が死亡。帰国後、フジテレビに就職。バラエティ制作、フジテレビキッズなどに所属し、主に子育てや子どもに関するコンテンツの企画やプロデュースをする。女性管理職としてマネジメントも行なう。2017年7月に退職。2017年7月、東京都議会議員選挙に出馬、港区でトップ当選を果たす(35,263票獲得)。子ども2人は東大を卒業し、社会人となっている。長男の入江哲朗氏は東京大学大学院総合文化研究科を修了し博士(学術)の学位を取得。アメリカ思想史の研究者であり、映画批評家としても知られる。次男の入江聖志氏は、東京大学教養学部を卒業し、民放テレビ局社員。著書に『「賢い子」は料理で育てる』(あさ出版)がある。