夫を突然亡くしたことにより、ワーキングマザーとして仕事と子育てを両立し、二人のお子さんを東大現役合格に導いた入江のぶこさん。その子育ての目標は「生き抜く力を持った“自立した人間”に育てること」、ただひとつだったと言います。
6歳の長男と11か月の次男を抱え、時間がない中で、仕事と子育てに加えて、家事まで一人で完璧にこなすことはそもそも不可能です。そこで、入江さんは“自分がすべきこと”と“それ以外”にハッキリと分けて効率化を図っていました。その中でも、最優先していたことが「仕事をしっかりやること」と「一日のなかで、短時間でもいいから子どもに集中し、濃密に向き合う時間をつくること」だったそうです。
今回は、そんな入江のぶこさんの著書『自ら学ぶ子どもに育てる』から、子どもとの向き合い方についてご紹介します。
文/入江のぶこ
“自立した人間”の基礎は幼少期につくられる
私にとって、なぜ「一日のなかで、短時間でもいいから子どもに集中し、濃密に向き合う時間をつくること」が最優先事項のひとつだったのか──それは、10歳くらいまでの子どもは、導く大人がいなければ何もできないからです。
ご自身のことを思い出していただきたいのですが、10歳くらいまでは自分の未来を自分でジャッジするには知識も足りていませんし、意思も強くなかったのではないでしょうか? そういった子どもにとって、親は大きな影響を与える存在なのです。その時期を過ぎれば子どもにも自我も芽生え、「親はこう言っているけれど、自分は違うと思う」と、自分なりに状況を判断することも可能になるでしょう。
だからこそ、子どもが10歳になるまでは全力で向き合う必要があるのです。
自分で考える力、応用する力、人に伝えるためのプレゼン能力──すべては小さい頃からの積み上げによって開花します。そして、親の手から離れた後も自信を持って生きていくために、子どもには自分が得意とするものを見つけてもらいたい。そのすべての基礎は幼少期につくるものであって、それはすなわち“幼少期の親との関わり”にかかっていると思うのです。
子どもは生まれる場所も親も選べません。子どもの環境をつくってあげられるのは、ベビーシッターさんでもなく、保育園や学校の先生でもなく、親なのです。仮にその子の理解力が乏しくても、深い愛情を持って、「あなたが生まれたこの世界はこんなところで、こんなことが起こっているのよ」と根気よく教えてあげられるのは、親しかいないと思うのです。
幼少期に親が手をかけないと、ひとりで生き抜く力を持つ子には育ちません。親たるものは、たとえ子どもに嫌がられようと関わっていく義務があるのです。
子どもを徹底的に観察し、その子に最も適しているものを見極め、できる限りの環境を与え、成功体験を積み上げられるように導く。そうすることで、子どもは自分の得意な分野で生き抜く力を身につけた“自立した人間”に成長するのです。
毎日10分でもいいから、子どもに集中する
子どもに集中したいけれど、ワーキングマザーは圧倒的に時間がありません。しかし、私は思うのです。時間の使い方が限られているワーキングマザーだからこそ、高い濃度で集中して子どもに向き合えるのではないかと。
「時間がたっぷりあるときよりも、切羽詰まったときのほうが馬力が上がる」なんて経験もあるのではないでしょうか? そう、大切なのは集中力なのです。
実際に私は「この限られた時間に、どれだけ集中して子どもと向き合えるだろうか。子どもとの時間の濃度を高めるためには、どうしたら良いのだろうか」と常に考え、工夫を凝らしていました。
例えば、寝る前の10分間や休日の午後の3時間を「この時間は子どもに集中する」と決める。そして、その時間は携帯の電源を切る。パソコンも開かない。とにかく子どもだけに集中して一緒に遊びながら、学びの機会を創出していました。
子どもたちも、いつも忙しくしている母親から「本を読んであげるから、こっちにいらっしゃい」と声をかけられたら、「あ、お母さんが本を読んでくれるんだ!」とテンションが上がり、短い時間でも集中している様子でした。子どもにとっても“普段忙しくしている母親と過ごす、濃密な時間”はかけがえのないものだったのだと思います。
そうは言っても「会社で重要なプロジェクトが進行していて、ほぼ毎晩帰りが遅くなってしまう」という方もいらっしゃるでしょう。でも大丈夫です。何も「毎日1時間、子どもと向き合う時間を確保せよ」と言っているわけではありません。一日のうち、たった10分だけでも、子どもに集中する時間を確保すれば良いのです。
「寝る前の10分は必ず子どもに充てる」と決めたのならば、何としてでもその10分は確保するように努めてください。ただし、そうしてできた“子どもと向き合う貴重な10分間”を散漫に過ごすことのないように!
絵本を読み聞かせたり、一緒にブロックを組み立てたり、お絵描きをしながら「この子が一番興味を抱いているものは何だろう?」と真剣に観察してください。
どんなに忙しくても、子どもと向き合える時間は必ずあります。子どもの特性を見極めるのは、ベビーシッターさんでもなく、保育園の先生でもなく、親にしかできないことですから、毎日必ず、子どもに集中する時間をつくるようにしてください。
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『自ら学ぶ子どもに育てる』(入江のぶこ 著)
あさ出版
入江のぶこ(いりえ・のぶこ)
1962年、東京都新宿区生まれ。幼稚園から大学まで成城学園で教育を受ける。大学生時代にフジテレビ「FNNスピーク」でお天気お姉さんを務める。卒業後、フジテレビ報道記者の入江敏彦氏と結婚。カイロ支局長となった入江氏と長男と共にカイロへ移住。イスラエルで次男出産。1994年12月ルワンダ難民取材のためにチャーターした小型飛行機が墜落し、乗っていた入江氏が死亡。帰国後、フジテレビに就職。バラエティ制作、フジテレビキッズなどに所属し、主に子育てや子どもに関するコンテンツの企画やプロデュースをする。女性管理職としてマネジメントも行なう。2017年7月に退職。2017年7月、東京都議会議員選挙に出馬、港区でトップ当選を果たす(35,263票獲得)。子ども2人は東大を卒業し、社会人となっている。長男の入江哲朗氏は東京大学大学院総合文化研究科を修了し博士(学術)の学位を取得。アメリカ思想史の研究者であり、映画批評家としても知られる。次男の入江聖志氏は、東京大学教養学部を卒業し、民放テレビ局社員。著書に『「賢い子」は料理で育てる』(あさ出版)がある。