取材・文/ふじのあやこ
一緒にいるときはその存在が当たり前で、家族がいることのありがたみを感じることは少ない。子の独立、死別、両親の離婚など、別々に暮らすようになってから、一緒に暮らせなくなってからわかる、家族の大切さ。過去と今の関係性の変化を当時者に語ってもらう。
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総務省統計局の労働力調査によると、2023年平均の就業者数6738万人のうち転職したのは328万人となり、全体の4.8%になるという。次に、株式会社アシロでは、ポータルサイト「ベンナビ労働問題」が行なった退職に関するアンケート調査(実施日:2024年2月27日〜2月29日、有効回答数:18歳〜49歳の2510人、インターネット調査)を見ると、64.6%が仕事をやめたいと思ったことがあるものの、「仕事をやめたいと思ったとき、誰に相談するか」の問いに対して1番多かったのは「誰にも相談していない(778人)」だった。
今回お話を伺った加奈子さん(仮名・39歳)は、就職してすぐに上司からいじめの標的にされていた過去がある。仕事を辞めたいと親に訴えたものの認めてもらえず、そのことで親と疎遠になった過去がある。
人間関係で悩むも、母親は会社を辞めさせてくれなかった
加奈子さんには両親と3歳上の姉がいる。姉は中学のときに不登校気味になり、なんとか高校に進学、卒業するもその後フリーターとニートを繰り返していた。姉のことは年々嫌いになっていき、一緒に暮らしている頃はそんな姉に甘い両親にもイライラすることが多かったと振り返る。
「姉は中学のときに友人作りに失敗したみたいで、頻繁に腹痛を訴えて学校を休むようになりました。私と姉は3つ違いなので中学、高校は一緒になることはなかったし、姉が学生だった頃はまだかわいそうと姉のことを不憫に思う気持ちも残っていました。
でも、姉がニートになって、ぶくぶくと肥えていく姿を見ていると、ごくつぶしにしか見えませんでしたね。そして、そんな姉に対して何も言わない両親にもイライラしました。なぜ働いていない状況を怒らないんだって」
姉は学校、バイト先でことごとく人間関係がうまくいかず、友人や同僚や先輩に恵まれた加奈子さんに姉の悩みは理解できなかった。しかし、加奈子さんの「私は人間関係をうまくやれるタイプ」という自信は、就職を機に一気に崩れたという。
「私が就職したのは輸入化粧品などを扱う企業で、会社にいるほとんどが女性でした。私は扱う製品の広報やPRを行う部署に所属したのですが、女上司に目をつけられて、いじめに遭うようになったんです。上司から頼まれる仕事はその頼まれた内容がコロコロ変わっていき、提出したときには『違う! なぜ言う通りできないのか!』と理不尽に怒られ続けました。怒られるのもみんなの前で、大声でされていました。最初はそんな私の姿を気にしてくれる人もいたんですけど、みんな関わり合いになりたくないのか、どんどん減っていって。私も誰かに相談する気力もなくて、ただ上司の怒りが最小限になるように、おとなしくするだけでした」
加奈子さんは就職後も実家から職場に通っており、上司に残業を押しつけられて終電で帰宅することが多くなった。そんな加奈子さんの姿に母親が心配して声をかけてきてくれたとき、加奈子さんは母親に「仕事を辞めたい」と伝えたという。
「母親からは『もう少し頑張ったら』と言われました。上司からどんな扱いを受けているのかも伝えたのに、『まだ働いて1年も経っていないのに、辞めるのは良くない』と、世間体を気にする言葉しか出てきませんでした」
【母親の寄り添い方は私が求めたものではなかった。次ページに続きます】