取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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東京都新宿区歌舞伎町の報道で「トー横キッズ」という言葉をよく聞く。トー横キッズとは、「新宿東宝ビル」という高層ビル周辺でたむろをする若者の集団の総称だ。
中には家庭や学校に居場所がない中高生もおり、犯罪に巻き込まれたり、望まない行為をさせられているとのニュースも聞く。
そんなトー横キッズを対象に、東京都は1月19日から30日まで期間限定で相談窓口を開くという。対象は都内在住や在学の18歳未満か、その家族ら。社会福祉士や公認心理師らが対面で相談に応じる。
美緒子さん(65歳)は「歌舞伎町のキャバクラや風俗店にハマった大人の相談窓口はないのよね」とため息をつく。真面目で優しかった一人息子(39歳)が、コロナ禍の直前に歌舞伎町にハマり、3年間で全財産を使い果たしてしまったからだ。
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いじめられないように、家からお金を持ち出す
息子は小学校3年生の時に、母子家庭の母親に、家から持ち出した3万円を渡した。そのことで母・美緒子さんは息子をきつく叱る。お金は人間関係に上下を作る。お金を渡せば相手より優位に立てるという快楽を知ってしまうと、抜けるのは難しい。
「その後も、息子は私の目を盗んで、友達やその親にお金を渡していたみたいです。中学校は私立に行かせましたが、当時の学校はいじめの温床。息子はいじめられないように適度にお金をボス格に渡していたみたい。高校には進学しましたが不登校になって、そのまま除籍。どうにもならないから、アメリカの大学に行かせたのです」
その大学は、お金を払えば入れる専門学校。息子は西海岸に3年も住んでいたのに、ふんだんな仕送りと日本人の仲間と過ごし、ほとんど何も学ばないまま帰国した。英語さえもしゃべれなかった。
「21歳でウチの会社に入社させ、私のもとで厳しく教えたのですが、“はい、はい”と聞く癖に、わかったふりして聞き流す。そして、誰かに尻を拭わせる。息子が入ってから、35人はいた社員が、ぽつりぽつりと減っていったんです」
息子は容姿が整っており、相手の懐に入るのがうまい。さらにゴルフができる。だから営業として使おうと考えた。
「最初は好かれるんです。ただ、3~4回会ううちに、人間の薄さが見えてくるんでしょう。あるお客様から“今度のコンペは息子さん抜きで来てください”と言われて、水をぶっかけられたようにゾッとしました。息子を連れて行けば契約が見直されてしまう。でも、息子を連れて行かなければ、彼の経営者としての成長はない」
人間をPCに例えれば、人付き合いのマナー、考え方などのデータを入れても、それを理解して活用するソフトや、作業するメモリがなければ、何の意味もない。メモリは先天的なものであり、ソフトは努力で身に着ける。息子はどちらも人並み以下だった。
「親の夫婦ゲンカを仲裁したり、きょうだい間での覇権争いなど、家庭内の人間関係が全くなく、さらにお手伝いさんやシッターさんにちやほやされて育ったから、人間関係の機微が解らない。友達も“お金ありき”で、自分で関係を構築していない。だからといって、会社を息子以外の人に譲るのは嫌だった。私の代では絶対に潰したくなかったんです」
美緒子さんは、「息子にもできる仕事を作ろう」と、イベント運用事業を立ち上げる。これが軌道に乗り、会社は息を吹き返した。といっても美緒子さんの会社は営業をするだけだ。実際の運営は提携するイベント会社とともに行う。ただ、息子は必ず現場に行かせる。「人の喜ぶ顔を見たい」という息子も嬉々として働いた。
「跡取り息子が休日返上して働いている姿を見せれば、従業員も働くから。まあこれがなんとかうまくいっていたので、そのうち息子を結婚させ、跡取りを産ませようと思ったら、コロナですよ。イベントがすべて吹っ飛んでしまった」
【従業員よりも、キャバ嬢……次のページに続きます】