2024年1月1日から新NISA(少額投資非課税制度)が始まった。旧NISAの非課税の期限が撤廃され無期限化された。生涯非課税限度額は合計1400万円から1800万円まで拡大。年間投資枠は、従来の120万円(一般NISAを選んだ場合)から3倍の360万まで引き上げられた。加えて、非課税保有期間が無期限になり、投資家はより多くの資産を長期間にわたって非課税というメリット受けながら運用することができるようになった。
その同日、経済評論家・山崎元さんが食道がんで65歳の生涯を終えた。テレビや雑誌などで個人投資家向けのわかりやすい解説が人気だった。
憲明さん(63歳)は3年前に食品メーカーを定年退職した。そこで得た退職金2200万円をNISAで運用している。「投資は難しくて怖いと思っていた。ただ、55歳で役職定年になったときに、肩書を外れてうつになりかけた。そのときに、山崎元さんの解説を聞きNISAを始めた。これにより救われたんです」と言う。憲明さんは投資にもデジタルにも苦手意識があったが、ネット証券の口座開設などの手続きをひとりでこなせたことで、自信を取り戻したのだという。
【これまでの経緯は前編で】
勢いに乗って、中型バイクの免許も取得
憲明さんは役職定年になり、それまでの“部長”の肩書が“スーパーバイザー”になった名刺を与えられ、誇りと自信を失う。うつになりかけた憲明さんを救ったのは、ネット証券での投資が“始められたこと”だという。
「とにかくネットがだめで、8年前の私はID・パスワードと見るだけでジンマシンが出るほどだったんです(笑)。業務なら余裕なのに、プライベートとなると拒否反応が出る。でも老後不安が叫ばれていたし、役職定年になって時間ができたので、腰を据えてネット証券とネット銀行の口座の開設に取り組めた。それにより、絶対に無理だと思っていたことが、可能になったんですよ。まさか、この私がネットで口座をつくれるなんてね」
金融関連は窓口で手続きしてきた世代にとって、オンラインでの諸手続きはハードルが高い。IDやパスワードに大文字小文字のみならず英数字や記号の混在を求められたり、住所は全角英数字のところ、半角にしてしまいエラーになり、その意味が解らず諦めたという話も聞いたことがある。
「チェックボックスの漏れや、複雑なパスワード設定など何度もエラーを繰り返して、登録できたときはうれしかったですよ。その後も銀行口座との連携、銀行への入金など不慣れなことばかり。また、どの投資信託を選べばいいか、どこから買えばいいかもわからない。そういう悪戦苦闘が楽しかったんです。未来の利益の可能性に向けて扉を叩いているというのが私は好きなんでしょうね」
言われてみれば、投資と企業の営業は似ている。個人と法人の差はあるが、未来の利益の可能性を探るために開拓していく行為でもあるからだ。
「あとは学びね。投資は銘柄選びも勉強になる。社会情勢や技術革新などにも興味を持つようになるので、現役時代からやっておけばよかったと今では思います」
その後、信頼できる専門家の本を読み、自ら勉強をして、資産の運用をしているという。
「役職定年があったから、余力がある55歳のうちに落ち着いて投資に取り組めたのだと思います。60歳からいきなり始めろと言われても、冷静さを失っていたかも。営業マンの言う通りに、適当な銘柄に全財産を突っ込んでいたかもしれない」
この一連の口座開設で自信を持った憲明さんは、バイクの中型免許も取得する。
「56歳のときに母が亡くなったんです。母は兄をバイク事故で亡くしている。だから“オマエ、絶対にバイクは乗るなよ”と言っていたので“乗ってはいけないものだ”と思っていたのですが、憧れはあった。母も亡くなったしやってみようかと挑戦したら3か月で合格したんです」
SNSも始めた。それまで会社や同僚の目があるので避けていたが、会社に“捨てられた”から挑戦した。それにはID・パスワードの苦手意識を克服したこともある。
【最初に検索したのは、別れた妻の名前だった……次のページに続きます】