文/鈴木拓也
年をとると、様々な眼のトラブルに見舞われやすくなるが、なかでもとくに怖いのは「緑内障」だろう。
日本における中途失明の病因として最も多く、なおかつ40歳以上の20人の1人が罹患し、推定患者は500万人を超えるという。しかも発症しても、かなり進行するまで自覚症状はないのが、その恐ろしさに拍車をかける。
一方で、「早期に発見し、初期段階から適切な治療を行えば、決して怖い病気ではない」と説くのは、井上眼科病院の井上賢治院長。
著書『いちばん親切でくわしい 緑内障の教科書』(世界文化社)の中で井上院長は、緑内障の概要にはじまり、検査と診断、予防習慣、治療法から症例報告に至るまでを、丁寧でわかりやすく解説している。
今回は本書の中から、各自ができる予防法にフォーカスをあて紹介しよう。
うつむいた姿勢は眼圧を上げる
緑内障とは、何らかの理由で眼圧(眼球の内側からの圧力)が上がり、網膜に張り巡らされた約120万本の視神経が収束する視神経乳頭を圧迫して、視神経がダメージを受けてしまう病状を指す。
いったんダメージを受けた視神経は、元には戻らない。そのため、進行すると視野が欠けていくかたちで自覚することになる。最悪の場合は失明に至るが、その段階になるまで10年から20年という長い時間がかかる。そのため、ほかの多くの病気と同様に早期発見・早期治療が重要となる。
その最初のステップとして、緑内障専門医のいる病院や眼科ドックで、眼圧や眼底の検査を受ける。そこで「緑内障の疑いがある」と言われたら診察を受け、治療を開始することになる。
緑内障の発症を予防し、進行を防ぐには、「眼圧を上げない」ことが大事。しかし、何気ない生活習慣のなかに、無用に眼圧を上げてしまうものがいくつもある。
眼圧は1日の間でも若干の変動があり、一般的には就寝時から朝型にかけて高くなる。これは、寝ている姿勢は眼圧を上げることと関係している。特にうつ伏せ寝は、かなり眼圧を上げ、横寝だと下になったほうの目の眼圧が上がる。言い換えるなら、寝る姿勢としては仰向けがベストということになる。
起きている間も、姿勢によっては眼圧が上がるので注意が必要だ。例えば、本やスマホの画面を、顔を下に向けうつむいた姿勢で長時間読んでいると、眼圧は上がってしまう。筆者は、筋トレの一環として逆立ちをしていたが、この姿勢だと眼圧が「急上昇」するそうだ。
こうした、姿勢による眼圧の上昇対策について、井上院長は次のようなアドバイスをしている。
手元の作業をするときは、うつむいた姿勢にならないように椅子や机を調節し、背筋を伸ばしたよい姿勢を保ちましょう。また、ときどき目を閉じて上を向き、休憩するのもおすすめです。(本書95pより)
カフェインのとりすぎは眼圧を上げる
さらに、ふだん何気なく口に入れているものにも、緑内障の発症リスクを高めるものがあるので注意が必要だ。
その筆頭がたばこ。
喫煙は、「視神経のダメージの進行を加速してしまう」という。それだけではなく、白内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性にかかるリスクも上げることがわかっている。
井上院長は、「目の健康を守るうえでは禁煙は絶対条件です」と説く。
そして、カフェイン飲料、甘いお菓子やジュース、お酒のとりすぎも禁物。
1日あたりのカフェイン摂取量が200mg未満の人と、それ以上の人との比較調査では、200mg以上摂取した人のほうが眼圧は高いという調査結果がある。ただし、コーヒーなら、1日1~2杯程度なら問題はないとも。
他方、甘いモノのとりすぎがよくないのは、「高血糖状態によって網膜の血管が傷んで、結果的に視神経がダメージを受ける」ため。特に砂糖は、血糖値を急上昇させる作用があり、これをたくさん含んだ飲食物は、避けたほうが無難。何かお菓子をつまみたいときは、糖質の少ないダークチョコレートがベターだ。
お酒については、「適量なら問題ありませんが、飲みすぎはNG」。深酒にくわえて、脂っこく塩辛いつまみを食べると、高血圧や動脈硬化につながり、目の健康にも悪影響を与える。間もなく迎える年末年始は飲酒の機会が増えるが、ほどほどに抑えるべきだろう。
逆に、積極的に口に入れたいものにも言及されている。
例えば、ビタミンA。夜盲症を防ぎ、角膜・網膜の新陳代謝を活発にするなど、目の健康によいことは、ご存知の方も多いかもしれない。また、これを「1日1400㎍以上摂取する人は、800㎍未満の人よりも緑内障発症リスクが少ないという報告」があるそうで、意識して毎日とっておきたい。これ以外に、ビタミンB群や亜鉛などの栄養素にも言及があり、必須ビタミン・ミネラルの重要性がよくわかる。
ウォーキングやストレッチで目の健康を保つ
生活習慣病対策に運動が効果的なことは、よく知られているが、実は目にもいいという。
特に適度な有酸素運動は、眼圧を下げ、緑内障の進行を抑える効果があるとされる。
有酸素運動のなかでも、井上院長がすすめるのはウォーキング、エアロビクス、水泳。実践のコツは次のように説かれている。
ウォーキングは、歩幅を大きく、元気よく腕を振って歩きます。ぶらぶら歩きではなく、軽く汗ばむくらいのペースで歩くと効果的です。
水泳は全力で泳ぐのではなく、ゆっくりと自分のペースで、少し息が弾むくらいのペースで行いましょう。(本書136pより)
運動量について言えば、1回30分くらいでいいそうだ。これなら体力に自信のない人でも始めやすい。
そして全身のストレッチ。血行を促進し、目に栄養と酸素を届けるという意味で、「いつでも何度でも」行うことがすすめられている。具体的なストレッチ法が本書にはいくつか掲載されているが、その一つ「ふくらはぎのストレッチ」を以下取り上げよう。
やり方:足を前後に開き、上半身を少し前傾させ、後ろ足のかかとを床に押し付けて20秒キープ。膝は軽く曲がってもOK。反対側も行う。
緑内障は失明のリスクを伴う病気だが、仮に緑内障と診断されても、適切な治療と生活改善で進行を遅らせ、目が見えるまま残りの人生を送ることは十分可能だ。「自分は緑内障かも……」と不安な方は、専門医を訪ねるとともに、本書を読まれることをすすめたい。
【今日の健康に良い1冊】
『いちばん親切でくわしい 緑内障の教科書』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。