ライターI(以下I):第26回にして、ついに家康(演・松本潤)が月代(さかやき)を剃りました。ジョリっていう音がやけにリアルに聞こえてしまいました。
編集者A(以下A):やはり精悍になりましたね。遅かったなという感はありますが、前週に正室瀬名(演・有村架純)、嫡男信康(演・細田佳央太)を失ったタイミングですから、今週から「一皮向けた」というのを可視化するという意味もあるのでしょう。
I:例え妻や嫡男が非業の死を遂げたとしても、悲しみにくれる暇などないのが戦国時代の性。家康は高天神城(掛川市)をめぐる攻防を繰り広げていました。
A:何度も言いますが、甲斐武田家の最大版図は勝頼(演・眞栄田郷敦)の代の領土となります。家康亡き後にその亡骸が葬られた久能山の久能城は信玄時代から武田家領でしたが、劇中で攻防を繰り広げた高天神城は遠江ですからね。そして、その武田家が滅亡へと向かう描写が描かれました。
I:わずかな時間でしたが、しっかりと戦国の悲哀を表現してくれる場面でした。まず岡部元信(演・田中美央)。もともと今川義元重臣だった彼は、桶狭間合戦後、氏真(演・溝端淳平)のもとを離れ、武田家に身を投じた人物です。
A:今川に続いて武田家も滅びようとしています。岡部元信、その心中いかばかりだったでしょうか。ひとかどの人物だったと思いますので、世が世なら大名になってもおかしくなかったと思います。
I:さて、高天神城の攻防では、降伏をさせずに、とことん弱らせて、救援を送れない勝頼の信用を貶める作戦に出ました。
I:武田家最大版図を実現した勝頼ですが、結果的に家臣団に無理を強いたのでしょう。多くの家臣が離反して、最後は劇中でも描かれた通りわずか数十人の家臣しか付き従っていなかったようです。
A:武田家菩提寺の恵林寺で快川和尚が「心頭滅却すれば火もまた自ずから涼し」と発し、織田軍が放った猛火の中で命を落としたのもこの時です。この言葉を放ったというのは伝承ではありますが、「心頭滅却すれば火もまた涼し」ということわざとして伝わっています。大善寺での別れなど、武田家滅亡にも数々のドラマがあります。
I:そして、勝頼の首が信長(演・岡田准一)、家康らの面前に運ばれました。
A:赤毛兜のままで首実検に供されましたが、ぱっと見て勝頼だとわかるようにとの演出なのですかね。首実検にはいろいろな作法があったそうですが、一度大河ドラマで作法に則った首実検シーンをやってほしいですね。
I:勝頼の首が家康の面前に置かれたのはいくつかの史料に記録されています。信長は勝頼のことを悪しざまに非難したようですが、家康は勝頼の首に対して丁重に接したそうです。劇中では首級そのものは出てきませんでしたし、明智光秀(演・酒向芳)が勝頼を悪しざまにいっていましたが、おおむね史実通りの雰囲気は出ていましたね。
「足をなめる犬」呼ばわりされた家康
I:今週気になったのは、平八郎(演・山田裕貴)が〈信長の足をなめるだけの犬になり下がったのかもしれん〉という台詞を発した場面でした。
A:現代にも通じる深い台詞でした。「足をなめるだけの犬」にも苦悩があるかと思いますし、こうした犬ばかりで固められた組織は滅んでいくでしょうし、さらには、「犬として耐えた日々があったればこそ今日がある」という場合もあるでしょう。
I:確かに家康の「犬ぶり」は見事でした。それが際立ったのが、富士遊覧のおもてなし。逆さ富士鑑賞を演出し、「信玄の隠し湯」を用意して、富士山の見える牧で馬を駆け、野点の用意までして天目台で茶を呈す。まさに完璧なおもてなしでしたが、私は「信玄の隠し湯」はやはり阿部寛さんに入ってもらいたかったと改めて思いました。
A:信長の〈見事じゃ。参ろう〉とそそくさとその場を立ち去ろうとする姿に目が行きました。案内役を務める方にとっては「あるある」のシーンですからね。そして、注目したいのは、信長と家康が馬を駆って、富士山麓を奔ったシーンです。
I:最高に絵になる信長と家康でした。もっと早くにこんなシーンを出してくれたらよかったのにと思いました。やっぱりロケはいいですね。私はこのロケの場面をカレンダーにしてほしいなと思ったりしました。それだけ美しい場面になりました。
A:カレンダーには、信玄と勝頼親子の「隠し湯」入浴シーンも入れてほしいですね(笑)。
【えびすくいと初登場「森乱」。次ページに続きます】