ライターI(以下I):源実朝が殺害されたことが切なくてたまりません。ほんとうに柿澤勇人さんの実朝の佇まいが心にしみわたっています。
編集者A(以下A):実朝が亡くなった後、安達景盛(演・新名基浩)や大江広元(演・栗原英雄)の嫡男親広、義時(演・小栗旬)の正室のえ(伊賀の方/演・菊地凛子)の叔父二階堂行村などの御家人100名ほどがその死を嘆いて出家したそうです。2代目鎌倉殿頼家(演・金子大地)の横死に続いての鎌倉殿非業の死ですから、多くの御家人たちにとっても衝撃的な事件だったのではないでしょうか。
I:梶原景時(演・中村獅童)弾劾への署名が66名といわれていますから、実朝の死を嘆いて出家した御家人の数の多さは特筆されます。北条家に対する無言の抗議のような感じがしないでもない。
A:実朝の死をどうとらえるか。800年ほど前の事件ですが、ほんとうに、ほんとうに理不尽な事件でした。実朝が暗殺事件に巻き込まれなかったら歴史はどう流れていただろうかと思わずにはいられません。実朝は『金槐和歌集』に多くの和歌を遺していますが、民のことを憂いて詠んだ〈時により過ぐれば 民の嘆きなり 八大龍王雨やめたまえ〉という作が、ひときわ胸に響いてきます。朝廷を手本にして、公家文化にも精通していた実朝ですから、為政者として民を思う歌を残すのは、天皇がそうした歌を詠むことに倣ったのかもしれませんが、この時代にこうして民のことを思う将軍がいたことを忘れてはならないと思います。
I:なぜ、そうした将軍が殺されなければならなかったのか、ほんとうに謎です。日本の歴史上重大な事件だったことが、柿澤さんの好演によって改めて浮き彫りになりました。
政子と施餓鬼に現れた農民たちとのやり取り
I:さて、こうした状況の中で実衣(演・宮澤エマ)が息子の時元(演・森優作)を次期将軍にしようとしていたことが描かれました。実際に『吾妻鏡』には、時元謀反ということで、駿河で時元が討たれたことが記されています。実朝の後継者を巡って、さまざまな動きがあったのでしょう。
A:それにしても、義時が実衣の罪を裁こうとする様に戦慄が走りました。妹の首を斬ろうとまで考えていたとは……。
I:義時が恐ろしいです。いったい何を考えていたのでしょうか。民のことを考えていた実朝を亡き者にしようとしたり、やくざも顔負けの文字通り「修羅道を往く」姿に驚かされました。
A:ことここに至って、義時らは源氏の血筋で鎌倉殿を継承していくということを完全に諦めたようですね。すべての権力を北条家が奪うという流れになってきています。
I:そうした中で、施餓鬼のお供えものをいただくために農民たちが現れ、政子(演・小池栄子)が対応します。気さくに農民らとやり取りする政子の姿にしみじみ心が和みます。夫を不慮の事故で亡くし、ふたりの娘も若くしてこの世を去りました。嫡男の頼家は無残な死を遂げ、次男の実朝は甥の公暁に殺されて、この事件で政子は実の息子と実の孫を一気になくす羽目になってしまいました。前週は自ら命を絶とうとしたところ、トウ(演・山本千尋)に止められていましたが、ほんとうだったら生きているのも辛いでしょうね。
A:なぜか不幸自慢をする農民に対して分け隔てなく接する政子が不憫でなりませんでした。その流れで、登場したウメという娘、この人はいったい誰? と思ってしまいました。
I:政子に対して、〈伊豆の小さな豪族の行き遅れがこんなに立派になられて〉と言っていましたが、確かに「何者?」と思ってしまいました。言っていることは事実ではあるのですが(笑)。
A:でも改めて説明されると、「ほんとそうだよね」というふうに思います。今週は実衣も政子に対して「政子が頼朝と結婚しなければよかった」というような発言までしていました。これもその通り。人間はそれぞれ来し方を振り返った時に、少なからず、「あの時、こうしていればよかった」と思ったりしますが、北条家の人々のように権力の中枢にまでのぼりつめたにもかかわらず、身内がことごとく不幸に陥ってしまうと、ことさら深い思いが襲ってくるのでしょう。
【義時の息子、泰時の弟の政村が登場。次ページに続きます】