文/鈴木拓也
巻き爪で寝たきりになった人も
爪の両端が内側に巻き込んで起こる「巻き爪」。
この巻き爪に悩んでいる人は、日本で1200万人もいるという。
放置すると、爪が皮膚に食い込んで痛いだけでなく、腰痛、偏頭痛、外反母趾、足腰の衰えなど、さまざまな疾患の元凶となりえる……そう説くのは、巻き爪技療士の寺建文博さんだ。
全国29店舗の巻き爪専門院を展開する寺建さんだが、「たかが巻き爪と思っていると、健康寿命を縮めることに」なると、著書『巻き爪は切るな!』(河出書房新社)で警鐘を鳴らす。
特にシニア世代の場合、巻き爪の痛みから歩行のバランスが悪くなり、腰痛や肩こりなどを併発。さらに進行すると、歩けないほど痛くなったり、転倒しやすくなるというリスクが増大。巻き爪のせいで、最終的に寝たきりになってしまった人もいるという。軽く考えがちだが、実は厄介な症状なのである。
深爪は巻き爪をもたらす
そもそも、なぜ巻き爪が起こるのだろうか。
寺建さんは、本書で原因をいくつか挙げている。その1つで代表的なのが、爪を短く切りすぎることだという。
まず、手も足も爪の白い部分を全て切ってしまうのは間違いです。
特に足の爪をとにかく短く切り、深爪の状態にしていると、爪が下側の皮膚から圧迫されて湾曲しやすく、両端が皮膚に食い込みやすい状態を作り出します。
これによって、知らないうちに自分で巻き爪を作っていってしまっているのです(本書より)
もう1つが、意外にも「合わない靴」を履くこと。特に「ブカブカすぎる靴」(靴の中にゆとりがあり過ぎる靴)は、巻き爪をもたらすそうだ。
こうした靴を履いていると、歩行時に足の爪が何度も靴にぶつかり、指先は動かないように踏ん張ろうとして無意識に力がかかってしまう。これが繰り返されるうちに、爪のダメージは大きくなり、足の変形を招き、巻き爪に至るという。
紐を結んだまま脱ぎ履きできるのは、靴の中にゆとりがありすぎる証拠。いちいち紐を結び直したり、靴べらを使うのが面倒と、紐を結んだまま余裕をもって履ける状態だと、巻き爪になりやすい。また、サンダルやスリッポンといった、紐のない靴も同様の危険性があるという。
伸びた爪はヤスリで整える
原因が分かれば、予防への糸口が見えてくる。
寺建さんは、巻き爪を「撃退する」いくつかの習慣を記しているが、ここでは2つだけ紹介しよう。
まずは爪の切り方。「爪は皮膚と同じ長さに揃えて切るが、基本」とのこと。
さて、ヤスリを用意しよう。爪切りはNGだ。以下の要領で、爪の伸びすぎた部分を整える。
1.指に対して垂直にヤスリを当てる。
2. 一方向に動かしながら削る(往復で削ると、爪を痛める)。
3. ヤスリが皮膚に当たったらストップ。
4. ヤスリの細かい面で、角を軽く削り少しだけ丸みをつける。
そして、正しい靴選び。寺建さんは、巻き爪を作らない理想的な靴として、次の条件を挙げる。
・サイズが自分の足に合っていること(足長だけでなく足幅、足囲にも合うもの)
・足の甲をきちんと押さえ、足が靴の中で必要以上に動かないように固定できる構造
サイズ選びの詳細については本書に譲るが、ここで注意したいのは、完全にぴったりではなく、「指1本入るか入らないかくらいのゆとり」をもうけること。それ以上のゆとりがあると、靴の中で足が動いて巻き爪の原因になってしまう。
「足首回し&足指屈伸」で足の健康を保つ
寺建さんは、ストレッチやエクササイズによる能動的な運動習慣もすすめている。
こうした運動は、「巻き爪そのものの形をすぐに変えられるわけではありませんが、足を健康で正常な状態に保つためにとても役立つ」という。
いくつかやり方があるが、その1つが「足首回し&足指屈伸」だ。
1. 椅子に座り、左足を右太ももにのせ、足を組む。左の足先を右手で持ち、足首を大きくゆっくり回す。右回し10回、左回し10回を1セット。
2. 1のポーズのまま、左手で左足の土踏まずあたりを握り、ここを支点にするようにして、左の足先を右手で持ち、右回し10回、左回し10回を1セット。
3. 左手の位置はそのままで、右手でゆっくり無理のない程度に足指を反らす&曲げるを繰り返す。10回程度。足が軽くなる感じを覚えたらGOOD。左足も同様に行う。
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これまで3万人以上の巻き爪を直してきた寺建さんは、「巻き爪は健康寿命とダイレクトに関係」すると説く。要介護度4の73歳の男性が、重度の巻き爪を改善したことでふつうに歩けるようになり、要介護度1にまで下がった例を挙げるように、「たかが巻き爪」と侮れない。もしも巻き爪で悩んでいるなら、本書を参考に改善に努めてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『巻き爪は切るな!』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。