談/さだ まさし(小学館『笑って、泣いて、考えて。――永六輔の尽きない話』より転載・再構成)
永六輔さんとの「最初で最後の」公式な場での対談をまとめた本(『笑って、泣いて、考えて。――永六輔の尽きない話』)が出版されました。
永六輔という人だけが持っている知識や知見、ものづくりのノウハウといった“財産”。それを後世に伝えなければならないと、僕が対談のオファーをしたのは、2013年のことでした。永さんの体調とも相談しながら、間を空けて、2回に分けて行いましたが、結果的に3回目が実現することはありませんでした。
まだまだ聞きたいことはたくさんあったなぁ。もっといろいろ聞き出したかったなぁ。これから、誰に人生を教わりに行けばいいんだろう。僕にとって永さんは、仕事や人生の目標とも言うべき存在でした。
今回の対談は、お尻の時間を決めずに行ったものでした。「話し疲れるまで」という条件で、とりとめなく話を伺いました。そのお陰もあって、永さん、本当に自由に、いろんな話をしてくださいました。
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永六輔という人は、喩えるなら、たくさんの紐を腰にぶら下げていた人です。“好奇心”という名の紐です。
その紐は、ただぶら下げているだけではありません。義理堅い永さんは、きちんと、その紐を引っ張る。何本ぶら下げていようが、忘れずに律儀に引っ張り続ける。しかも楽しそうに。
永さんは“変な人”や“変なこと”が大好きな人でした。正直、「えっ、永さん、こんな人(こと)にこだわるんですか?」と疑問に感じたことも多々あります。
永さんの興味の順序――紐を引っ張る優先順位は独特で、僕には理解できないこともありましたが、いつも真っすぐにピーンとアンテナを立てて、アンテナの向くまま、足を向けていました。自分の得になるとか、誰かに呼ばれたとか、そういう理由で行動を起こさない人でした。
永さんにとって紐を引っ張ること――“好奇心”は生きるエネルギーでした。文字通り全国津々浦々、“好奇心”の向かう先に足を運び続けました。
しかも永さんは休まない。永さんの好奇心には休みがないのです。
僕も、人一倍好奇心がある人間だと自負していますが、永さんにはまったく適いません。なぜなら僕は「休む」からです。酒好きですからね。お酒を飲んでいい気分になっている時は、好奇心も小休止です。「今日は飲んでいい気分になろう」となる。でも永さんはお酒を飲まないので、酒席でも好奇心がフル回転している。
酒も飲まない、食事も早いという人ですからね。時間がたっぷりあるわけです。そしてその時間を、“好奇心”で消費していました。
引っ張り続けた紐が、形になり始めると、永さんはラジオなどを通じて人に触れ回りました。永六輔という回路を通すと、どの紐も面白おかしい話になり、世間に浸透していきます。で、ある程度、世間に行き渡ったとことで、ポイと紐を放る。
何人もの芸人さん、歌い手さん、役者さんが、永さんの紐の先にいました。永さんは陰日向に応援し、アドバイスを送りました。手紙をしたためたりもしました。「間違っている」と思えば、叱り飛ばしました。永さんにとっての「種蒔き」です。
といっても、一方通行の関係じゃありません。種を蒔きつつ、永さん自身も、その人たちから何かを吸収している。そして蒔いた種の花が開くと――そうした人たちが売れ出すと、永さんは興味を失い、知らん顔をします。「俺が発掘したんだ」「俺が育てたんだ」などと、恩に着せることもありません。恩を返されることも大ッ嫌いだから、一定の距離を置く。
天の邪鬼と言えば、大の天の邪鬼。照れ屋と言うなら、人一倍の照れ屋です。
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永さんという人間は、僕らに測りきれる人じゃないんです。僕らの持っているスケールに対して、大きすぎるんです。だから測るとか、理解するなんて考えちゃだめなんだな、きっと。永さんの言葉から何か仕事や人生に役立つことを盗もうなんて考えちゃいけません。あの人だからできたことなんですから。
僕たちはただ、永さんが投げてくれたものを受け取って、自分の中で咀嚼していくしかないんだと思います。咀嚼すらできないかもしれませんが、いいんです。それくらい大きな人なんだから。
永さんの話に笑ってください。
泣いてください。
でも、すこしだけ何かを考えてみてください。
この本が、永六輔という人間の魅力を味わっていただくのに、少しでもお役にたてば、これ以上の喜びはありません。
さだ まさし 拝
※以上は、下記書籍の序文より転載しました。転載にあたり、一部改変・割愛しました。(編集部)
『笑って、泣いて、考えて。――永六輔の尽きない話』
著/さだまさし
定価:本体1000円+税
小学館刊
永六輔が「最後の対談」で明かした仰天秘話と人生訓
200万部超の大ベストセラー『大往生』をはじめ、テレビやラジオ、作詞など様々な分野で歴史的名作を遺した永六輔さん(享年83歳)が晩年、病気を押して最後の対話相手に選んだのが、さだまさしさんでした。時間を決めず「話し疲れるまで」という条件で続いた対話は、永さんの好奇心、行動力、人間関係、仕事の秘密、ヒットの舞台裏、有名事件の真相にまで及びます。