サラリーマンの副業といっても、様々なものが挙げられるでしょう。例えば、本業とは別の会社でアルバイトをした場合や、賃貸マンションなどの不動産賃貸収入がある場合、ネットオークションの収入がある場合など、様々な収入を得る方法があります。仕事の種類に応じて所得の種類も異なるため、所得税の計算方法も異なってきます。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる税務申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、税額計算の手順から、副業で収入を得た場合の税額計算シミュレーションについてお話ししたいと思います。
目次
副業している場合の税金の計算手順
副業をしている場合の税金をシミュレーション
まとめ
副業している場合の税金の計算手順
本業か副業かを問わず収入があれば、基本的に課税対象となって税金を計算しなければいけません。本業がサラリーマンであれば、お勤め先の給与に関して年末調整で税金計算は終了しますが、副業での収入がある場合は確定申告をして税金を納める必要があります。
手順1:所得金額を計算する
本業の所得金額は年末調整を終えた源泉徴収票から確認することができます。そこへ副業の所得を合算することになりますが、副業の所得金額の計算方法は所得の種類により異なります。
・アルバイトなどの給与所得の場合
アルバイトをした会社から年末調整が未済の源泉徴収票が発行され、本業の源泉徴収票と合算して所得金額を計算します。
・不動産所得や雑所得の場合
この場合の所得金額の計算方法は、「収入 - 必要経費」となります。不動産所得の場合は、年間の家賃収入や礼金収入等から必要経費を差し引いたものが所得金額です。雑所得の場合も、雑所得にかかる年間の収入から必要経費を差し引いたものが所得金額になります。
手順2:所得金額から所得控除額を差し引く
所得金額から経費とは別に控除できるものがあります。それを所得控除といい、その種類は15種類あります。医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税)がよく知られているところでしょう。その他にも雑損控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除・障害者控除・寡婦控除・ひとり親控除・勤労学生控除・配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除・基礎控除があります。
これらの所得控除は、納税者それぞれの個人的な生活状況や経済力に配慮して、税金計算するために設けられているものです。医療費控除、寄付金控除(ふるさと納税等)、雑損控除(災害や盗難等による損害)は確定申告でなければ適用できません。しかし、その他の控除は年末調整で適用することが可能です。
手順3:所得控除後の課税所得金額に税率をかける
日本の所得税の制度は、所得が高くなればなるほど税率が高くなるという「累進課税制度」です。国税庁のHPによると、現在の税率は下記のようになっています。
【所得税の速算表】
所得金額 | 税率 | 控除額 |
~195万円 | 5% | 0円 |
195万円~330万円 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円 | 23% | 636,000円 |
900万円~1,800万円 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円~ | 45% | 4,796,000円 |
国の政策によって税率は変わることがあるため、税金計算の都度確認が必要です。また、東日本大震災からの復興のために、復興特別所得税として所得税の2.1%が加算されています。
副業をしている場合の税金をシミュレーション
ここからは、実際に副業をしている場合にどのくらいの税金が発生するのか、また副業の所得の種類による計算方法の違いがどういうものなのかを、簡単にシミュレーションをしていきます。なお、前提条件として本業の給与収入が400万円で所得控除は基礎控除の48万円のみで、復興特別所得税や不動産所得の青色申告控除等は考慮しません。
副業収入が100万円と200万円の場合のシミュレーションを見ていきましょう。
副業の収入が100万円ある場合
・副業がアルバイトの場合
(1)所得金額
本業の給与収入にアルバイトの給与収入を合算します。
400万円 + 100万円 = 500万円
そこから給与所得控除(給与収入から差し引く控除額で収入によって控除額が変わる)を差し引きます。
500万円の場合144万円になります。
※給与所得控除:500万円 × 20% + 44万円 = 144万円
500万円 - 144万円 = 356万円
(2)基礎控除48万円
(3)課税所得金額/所得税額
課税所得金額:(1)-(2)=356万円 - 48万円 = 308万円
これに税率をかけて所得税を算出します。
所得税額:308万円 × 10% - 9.75万円(所得控除) = 21.05万円
・副業が不動産所得や雑所得の場合
(1)所得金額
A.給与所得
給与収入400万円 - 給与所得控除124万円 = 276万円
※給与所得控除:400万円 × 20% + 44万円 = 124万円
B.不動産もしくは雑所得
100万円 - 10万円 = 90万円(※副業の必要経費を10万円と仮定)
C.A + B= 276万円 + 90万円 = 366万円
(2)基礎控除48万円
(3)課税所得金額/所得税額
課税所得金額:(1)-(2)= 366万円 - 48万円 = 318万円
所得税額:318万円 × 10% - 9.75万円(所得控除) = 22.05万円
副業の収入が200万円ある場合
・副業がアルバイトの場合
(1)所得金額
本業の給与収入にアルバイトの給与収入を合算します。
400万円 + 200万円 = 600万円
そこから給与所得控除額を差し引きます。600万円の場合164万円になります。
※給与所得控除:600万円 × 20% + 44万円 = 164万円
600万円 - 164万円 = 436万円
(2)基礎控除48万円
(3)課税所得金額/所得税額
課税所得金額:(1)-(2)= 436万円 - 48万円 = 388万円
これに税率をかけて所得税を算出します。
所得税額:388万円 × 20% - 42.75万円(所得控除) = 34.85万円
・副業が不動産所得や雑所得の場合
(1)所得金額
A.給与所得
給与収入400万円 - 給与所得控除124万円 = 276万円
※給与所得控除:400万円 × 20% + 44万円 = 124万円
B.不動産もしくは雑所得
200万円 - 10万円 = 190万円(※副業の必要経費を10万円と仮定)
C.A + B =276万円 +190万円 = 466万円
(2)基礎控除48万円
(3)課税所得金額/所得税額
課税所得金額:(1)-(2)= 466万円 - 48万円 = 418万円
所得税額:418万円 × 20% - 42.75万円(所得控除) = 40.85万円
まとめ
今回は税金計算の手順と税額計算シミュレーションについて簡単にお話いたしました。最初の段階で副業による収入が、給与収入か不動産やその他の所得なのか、どの所得区分に該当するのか判断しなければなりません。なぜなら、それによって税額計算の方法が変わってくるからです。また、今回は詳細には触れませんでしたが、必要経費についても不動産所得と雑所得では認められる経費の内容が変わってきます。
いずれにしても税額シミュレーションでご覧いただいた通り、副業収入が多くなるほど支払う税金も大きくなります。副業収入に対して申告や納税が必要なことを認識しておきましょう。判断に迷ったら税務のプロである税理士にご相談することをおすすめいたします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)