101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト、室井摩耶子さん。自分らしく、幸せに生きるコツは、「わたしという『個』、わたしの『心とからだ』の声に従ってきたから」だと言います。そんなマヤコさんの生きる指針をご紹介します。「人生100年時代」と言われるいま、将来の暮らしに漠然とした不安を持っている方のヒントになるはずです。

文/室井摩耶子

百寿のお祝いが届いたけれど、ひとり

ピンポン、とドアのチャイムが鳴ったので、よたよたと(本人の中では早足で)玄関に向かうと、はたしてそれは宅配便の段ボールでした。

「ムロイさんですよね? マヤコさんですよね?」
宅配便の若いお兄さんが何度も念を押します。わが家に届くにしては大きな段ボールで、わたしが運び込むのは絶対に無理です。しかもお兄さん、重そうに持っています。

「ねえ、重い? すみませんが中まで持っていってくださる?」と、お願いしてみましたが、「いいえ、だめです。わたしたちは中に入ることを禁じられていますので」と、とりつく島もありません。

けんもほろろに、「サインはいりませんから」という捨て台詞を残して(忙しかったのかしら?)、お兄さんは小走りに出て行ってしまいました。

さて玄関に残された大きな段ボール、どうしたものか。開けるしかないわね。何が出てきたと思います?

入っていたのは「百寿のお祝い」。東京都から贈られてきた、お祝いの品の数々だったのです。

「東京都知事 小池百合子」だの「内閣総理大臣 菅義偉」(当時)だの、エライ方々のお名前の入った、美辞麗句の羅列された祝状も出てきました。

そのとき、いまだかつてない感覚に囚われました。「わたしは、ひとりだ!」

百寿のお祝いです。きっとめでたいことですし、わたしも嬉しかったのだと思います。でも、「わあ、すごい、おめでとう!」と歓声をあげてくれる人もいなければ、共に喜びを分かち合ってくれる人は、この家にはいません。

自分で選んで歩んできた「ひとり」で過ごし抜く人生ですが寂しさがないわけではありません。でも、それ以上にひとりだからこそ、楽しいこと、楽しめることがたくさんあるのです。

100歳だから半纏を着ろ?

翌日、この喜びに巻き込むべく、友人を招待しました。もちろん、玄関を塞いでいるこの大きな段ボールを運びいれてもらう、という魂胆――切実な事情もありましたが。

友人と一緒に、段ボールの中身を床いっぱいに広げました。いちばん大きな記念品は何だったと思います? なんと半纏(はんてん)。

「え、100歳だから半纏を着ろ、というわけ?」

悪態をつきながら、ケラケラと笑い合いました。これはなんとも誇らしい時間でした。

実際の半纏は、素晴らしい織物で作られており、着てみると風格たっぷり。一緒に入っていた「銀杯」もまた、品格のある輝きで、底には「寿」と彫られており、すぐに飾りたくなるような逸品でした。

良い品をいただいたことよりも、改めて友人と楽しい時間を過ごせたこと。それが何よりかけがえのない経験でした。ひとりで長生きする人生も悪くはないものです。

* * *

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室井摩耶子(むろい・まやこ)
大正10年4月18日、東京生まれ。6歳でピアノを始める。東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業後、同校 研究科を修了。昭和20年1月に日本交響楽団(NHK交 響楽団の前身)演奏会でソリストとしてデビュー。昭和30年、映画『ここに泉あり』にピアニスト役(実名)で出演。昭和31年にモーツァルト「生誕200年記念祭」に日本代表としてウィーン(オーストリア)へ派遣され、同年、第1回ド イツ政府給費留学生としてベルリン音楽大学(ドイツ)に留学。以後、海外を拠点に13カ国でリサイタルを開催、ドイツで「世界150人のピアニスト」に選ばれる。59歳のとき、演奏拠点を日本に移す。CDに『ハイドンは面白い!』など。平成24年、新日鉄音楽賞特別賞を受賞。平成30年度文化庁長官表彰。令和3年、名誉都民に選定される。101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト。

 

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