関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は絵梨さん(32歳)です。IT関連会社に勤務するキャリア女性です。美容に毎月20万円以上かけて、恋愛依存気味な母(60歳)が、家の貯金から150万円を使いこんでいることがわかり、私たちに調査を依頼。母は25年前に父と離婚。絵梨さんは父から「お母さんが表参道のカフェでワルそうな男性と一緒にいた」という情報を得ています。
【それまでの経緯は前編で】
100万円以上するスーツに、60万円のバッグでお出かけ
絵梨さん母娘が住む渋谷区内のマンションは、意外と古く大衆的でした。もっとすごいタワマンかと想像していたのですが、意外とそうでもない。
母が“名ばかり役員”をしている叔父が経営する会社について調べると、コロナの影響もあり、経営は苦しい様子でした。事業内容を見ると、下請け的な要素を含む仕事が多く、設備投資も大変そうです。だから内実は苦しいのではないかと推測。
金曜日の15時に家から出てきた母は、ピンクベージュのツイードのスーツを着ています。このブランドのスーツは、100万円以上することでも有名。持っているバッグは60万円、靴は20万円程度でしょうか。高級なアイテムをさらりと着こなしていて嫌味がない。
タクシーを拾い表参道のあるヘアサロンに入り、1時間後に出てきました。ロングヘアはツヤツヤしており、何も変わった様子はないので、おそらくシャンプーだけに行ったのでしょう。
17時に高級なカフェのテラス席に座り、iPadを広げます。画面をよく見ると、うつ病の情報収集をしていました。
17時30分に、胸にドーンとブランドロゴがプリントされた50代の男性が母のテーブルにやってきました。母は明らかにウキウキしている。豊かな白髪をツーブロックにしており、肉体も相当鍛えていることがわかる。指にはシルバーのごつい指輪をつけています。どれも高級そうです。
ほっそりとしているアイドルのような母と、大柄で目力がある男性はとても目立つ。男性は炭酸水を、母はシャンパンを飲みながら食事をして、2時間程度を過ごしていました。男性はボディタッチを頻繁にします。頭を撫でたり、腰を抱き寄せたりして、髪を触ったりするが、どれも自然。そうしながら、いちいち褒めている。ペアの男性が「これは好きになっちゃうよな」と言っていました。
会話を聞いていると、男性はオンライン英会話学校を運営しており、年下の女性と離婚したばかり。元妻のところには3人の子供がおり、元妻はうつで働けないからお金が必要だと言っています。
男性はかなり話が上手で、母にお金の無心をしているのに、全くそうは聞こえない。会話の流れが自然なのです。母はバッグから封筒を出すと、男性に渡しています。厚みからすると20万円程度でしょうか。その受け取り方も自然で、申し訳なさそうにするわけでもなく、渡したお金が、最初からそこになかったかのように扱うのです。
【翌日、男性は若い女性と2人で、ある小学校に入って行く……次のページに続きます】