取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

奈緒さん(仮名・62歳)は2年前に夫を病で亡くしてから、娘のすすめでInstagram(インスタ)を始める。続けるうちにある俳優にハマり、その「推し活」で知り合った朋美さん(59歳)に手ひどく裏切られて、心身の状態を崩しているという。

【これまでの経緯は前編で】

スマホを見続けて、視力が激しく低下した

次から次へと新しい情報が表示され、友達からのイイネやコメント、DM(Direct Message)の通知が常に来るから、一時期はスマホ中毒のようになっていたという。

「通知が来ると、早く返事を返したくなるんです。早く返さないと失礼な気がするし、待たせてしまっては悪い気がして。仲間内の誰かが投稿を上げたら、即座にイイネをしたいと思って、ずっとインスタに張り付いていました」

ところで、奈緒さんはどのような投稿をしたのだろうか。

「私は押しの俳優が出ているテレビ画面を撮影したものや、彼が好きなパンやワインを娘と楽しんだという内容です。そこに友達が“この撮影時にこういうことがあったんですよ”など、いろんな裏話を書き込んでくれて、さらに世界が広がるんです。みんなで“推し”を崇めて輝かせようと思っている一体感はインスタならではだと思います。ママ友などとは異なり、リアルな生活圏の人付き合いとは関係ないし、マウンティングもないし、とても平和で楽しかったんです」

楽しい思いと引き換えに、視力は落ちた。

「みるみる視力が落ちるのにやめられない。インスタを始める前までは、裸眼で0.5あったので、メガネなしでも買い物ができたんです。でも今は0.1に。メガネがないと何もできなくなってしまった」

貯金もかなり目減りした。

「グッズを集めるだけでなく、ファン仲間が経営するブティックやレストラン、雑貨店にも行きましたからね。5000円程度の買い物じゃ悪いような気がして、2万円のセーターや、1万円分のテイクアウト料理、1万円分の食器などを購入していました。みんな、コロナで大変なのに頑張っているんです。私くらい買ってあげなくちゃ」

娘から、「ママ、ハマりすぎだよ」とたしなめられても、やめられなかった。

「そこが、私の居場所だったんです。そういうファン仲間との交流をインスタにアップしていたら、朋美さんから“アクティブに活動していて、いいですね”というコメントが付いたんです。彼女がこういうことを書くって“出しゃばりすぎ”という警告だとはわかっていました。だから、“紹介していただき、感謝しています”というコメントを返したのです。

【私が悪口を言っていると吹聴され、人間関係がぎくしゃく……次のページに続きます】

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