力がある人には、クセもある
それまで、朋美さんはファンの中でも「上位の人」だった。ファン歴が長いために、俳優のマネージャーとも顔見知りで、ファンのまとめ役のようなこともやっていたという。
「朋美さんは、“特別な自分”が大好きなんです。それに対して、私が台頭してしまったから面白くなかったんでしょう。朋美さんの紹介で、私が密接に交流していた女性は6人いました。皆さんはそれなりに裕福な家庭の奥様で、皆さんどことなく似ている。日々のコミュニケーションはインスタの投稿で、ときどきリアルでも会うという交流が一年半以上続き、私にとってかけがえのないものになっていたんです」
推しの俳優の周りに集まる40~60代の女性達。俳優はすでに結婚しており、遠くから応援することに終始するという、静かであり熱いチーム。奈緒さんは活動の本質を理解していた。だから仲間たちにも受け入れられた。
しかし、朋美さんはそうではない。自らの優位性を誇示することも目的だった。皆が朋美さんに一目置いていたのは、古参のファンだから、俳優本人に会わせてくれるかもしれないという淡い希望もあったのだろう。
「“朋美さん抜きで会いましょう”という雰囲気になったころに、ブティックを経営しているお友達から、“ダサいセーターを買わせてしまってごめんなさいね”とDMが来たんです。他にも仲が良かった友達から、同様のDMが来たんです。目の前が真っ白になりました」
その背景は、奈緒さんの台頭を問題視した朋美さんが、個別にメンバーのもとへ会いに行き、「そういえば奈緒さん、あなたのお店がコロナでかわいそうだから買ってあげたみたいよ」などと、棘がある物言いで、あることないこと言いふらしていたのだ。
「そして、親しい仲間の多くから、私はブロックされました。みんなのアカウントが見られないんです。LINEを見るとそれも削除されている。足元に穴が開いて落ちていくような気分です」
その日から奈緒さんは健康を損ねてしまう。あれほど好きだった俳優のことも、見ると辛くなってしまったという。
「朋美さんとは、今でも繋がっていますが、辛いのでインスタのアプリは削除しました。力がある人には、それなりにクセがあるんですよね。それでもやはり、朋美さんは魅力があると思います。最近、いきなり涙が出てきたり、不安でどうにもならなかったりすることもあるんです。思うように体が動かなくなってきたのも辛くて、寝込むことも多いんです。こんな時に、きちんとした友達がいればいいのにと思うのですが、なかなかそうもいきません」
リアルな人間関係は、その人のいいところも悪いところも見えている。多少カチンとくる言動があったところで、「この人は普段はそんなこと言わないから変だな」などと推測の余地がある。しかし、SNSはそうではない。インスタは親しい人同士の“褒め合い”文化の傾向が強い。
そこに相手が望まない一言や、真実を抉る意見がやってくると、それは深い傷跡を残し、人間関係を跡形もなく破壊する。なぜなら、ネットはブロックしたり削除したりするという、暴力的なほどの縁切りができるからだ。 ネットでのコミュニケーションに慣れていない世代が、深入りしてしまい、不本意な結果により、心身の健康を損ねるケースが今後も増えていくだろう。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。