生きていると、家族、夫婦、友人、仕事、勉強、健康面など、さまざまな問題が生じます。自分の努力次第でどうにかできることもあれば、そうではないことも。そんな中、ストレスを溜めすぎず、がんばりすぎず過ごしていくにはどうしたらよいのでしょうか? キャリア70年以上の精神科医・中村恒子先生の著書『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』から、恒子先生流の「人生をうまいことやる」コツをご紹介します。
文/中村恒子・奥田弘美
心の距離感を変えれば、それなりに付き合える
生活していると、気持ちのよくないことが起きますわな。ちょっとしたやりとりの中で、何かされたり、言われたり。これは、自分では避けようがありません。
せやから、受け止め方を変える練習をしていきましょう。チクッとイヤなことを言われたときは、「あの人、家で何かイヤなことがあったんやろなあ」くらいに思って、都合よく軽く受け止めるというのがええんやろね。
「自分の何がいけなかったんやろ?」「どうしてそんなことを言われたんやろ?」そんなふうになんでもかんでも重く受け止めてしまうと、しんどいだけ。自分で自分をいじめてるようなもんですわ。もちろん、自分に非があるときもあるでしょう。「たしかにそうやなあ」と思うんであれば、直してみようとすればええ。
ただ、冷静になって考えたときに「え、なんでや?」と思ったんであれば、それは真に受ける必要はありません。「なんか意地悪したくなる事情があったんやろうなあ」「イライラして八つ当たりしてはっただけなんやろ」「なんや気の毒な人やなあ」くらいで解釈しておきましょう。
実際、人が人を注意したり、怒ったりするときなんていうのは、だいたい身勝手なもんなんです。「愛があるゆえの注意」ということもあるかもしれへんけど、本当に愛情があるかどうかなんて、言われたほうはすぐにわかるもんですわ。
不快だったり、傷ついたりしたと感じたら、「この人はそういう人なんや」と、距離のとり方を変えましょう。まともに付き合おうとしたり、気に入られようとしたり、がんばるから余計に関係がおかしくなるんです。「この人は気の毒な人やから、こっちもこれくらいの付き合いでええわ」と心の距離を離してみましょう。
表現としては「気持ちを入れすぎない」ということでしょうかな。かかわる人みんなの顔色を気にする必要はどこにもありません。それで、ある程度は「だましだまし」やってくのが生きる知恵というもんやと思います。ただ、この「だましだまし」がなかなか難しいんやろうね。
私が最近の傾向として感じるのは、イヤなことやつらいことがあったら、すぐに結論を見つけようとする人が多いことです。心療内科や精神科にも、「どうすべきか」の結論を急いで受診する人が多くなったなあと思います。
試験の問題ならいざしらず、生き方や人付き合いに万人共通の答えなんてあるもんでしょうか。病気やったり、生きる死ぬがかかわってくるなら話は別やけども、人生のあらゆる選択は、最後には自分で責任を持って決めていくもんです。
おもしろいもんで、相談に来る人もみんな解決策を探しているように見えて、実のところは「自分がほしい答え」を探してるんですな。家族関係も、職場の人間関係もそう。1か0か、「好きなら付き合う」「嫌いなら別れる」といった具合です。なんでも極端になりがちで、自分を応援してくれる極端な意見を求めてるんですわ。でも、そこまで極端にならんでも、それなりにうまくやっていくことはできるはずやと私は思います。
そもそも人間関係に100点はないんやからと言い聞かせて、心が許せる人にだけ本音を言ったり、グチを吐いたりすればええんですわ。それでも、どうしてもダメとなったとき、物理的に距離をとればええんでしょうな。
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『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』 中村恒子・奥田弘美 著
すばる舎
中村恒子(なかむら・つねこ)
1929年生まれ。精神科医。1945年2月、終戦の2か月前に医師になるために広島県尾道市から1人で大阪へ。混乱の時代に精神科医となる。2人の子どもの子育てと並行しながら勤務医として働き、2017年7月(88歳)まで週6フルタイムで外来・病棟診察を続けていた。その後、2017年8月から週4のフルタイム勤務となる。「いつお迎えが来ても悔いなし」の心境にて生涯現役医師を続けている。
奥田弘美(おくだ・ひろみ)
1967年生まれ。精神科医・産業医(労働衛生コンサルタント)。日本マインドフルネス普及協会代表理事。内科医を経て、2000年に中村恒子に出会ったことをきっかけに精神科医に転科。現在は、精神科診療のほか都内20か所の企業の産業医として、ビジネスパーソンの心身のケアに従事。著書に『何をやっても痩せないのは脳の使い方を街がてていたから』(扶桑社)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マインドフルセンター)、『心の毒がスーッと消える本』(講談社)など多数。