コロナ禍にあって、人とコミュニケーションをとる機会は以前より格段と少なくなってきています。しかし、人は「自分のことを話したい」という欲求を持っているといいます。人と会話する機会に話をうまく聞くことができれば、コミュニケーションの質が高まり、相手との関係を良好に保つことができるでしょう。
そこで、累計100万部のベストセラー『人は話し方が9割』の著者、永松茂久さんの『人は聞き方が9割』から、人とのコミュニケーションがうまくいく「聞き方」のコツをご紹介します。

文・永松茂久

どんな人にも言い分がある

世の中にはいろんな人がいます。
残念ながら幸せな人ばかりではありません。

友達ができず、1人で虚ろな日々を過ごしている人。
コミュニケーションが苦手なために、職場で周りの人とうまくいかず、1人孤独に仕事をしている人。
明日に希望を見出せずに家の中に引きこもっている人。
悪意のある噂を流されて、周りから人が離れていった人。
中には孤独がゆえに、反社会的行為を起こしてしまう人もいます。
もちろんその人にもそうなる原因はあるかもしれません。

しかし、なりたくてそうなっている人はいません。
誰もがみな、自分の言い分や感情を持っているのです。

大切なことを教えてくれた刑事さんの話

「人は孤独になると、判断を誤る」
このことを私に教えてくれた、ある刑事さんのお話をします。
その方は、今、定年退職で引退し、現在はいろんな困りごとを抱えた人たちの相談員をボランティアでやっている、元警察官です。

刑事課に所属していた現役の時、私の店の常連さんになってくださったことで、いろんなお話をさせていただき、ときには飲みに行く関係になりました。

「兄ちゃんは本を書いてるから、俺の経験がちょっとでもネタになればいいな」と、よくいろんなことを私に話してくれました。
そんなに口数が多い人ではなく、一見刑事さんとは思えないくらい物腰の柔らかい人でした。
話を聞くつもりで行った私が、気がついたら話す側に回っていることもしばしば。
思わず人をそんな気持ちにさせてしまう、不思議な空気を持っていました。

「ありがとう。私のことをわかってくれて」

「犯罪を生み出す一番の原因は孤独感だ」
刑事さんは飲みながら、よくこう言っていました。

刑事生活の中で、取り調べで犯人から言われた言葉の中に、とても印象的なひと言があったそうです。それは
今まで、誰も自分のことをわかってくれなかった。でも刑事さんが、人生ではじめて俺のことをわかってくれた気がするよ。違う場所で、もっと早くあんたに会えてたら、ここにはいなかったかもしれない。ありがとう。俺のことをわかってくれて」という言葉でした。刑事さんは私にこう続けました。

「人ってな、孤独になると普通の判断ができなくなるんだよ。誰でも『自分はひとりぼっちだ』って感じたら物事を冷静に考えられなくなる。だから普通の人じゃ考えられないようなことをやっちゃうんだろうな」
たしかにその通りかもしれない。

刑事さんから聞いたその話をきっかけに、こんなことを考えるようになりました。
「犯罪者とまではいかなくても、なんらかの形で周りに迷惑をかける人、嫌なことを言って人を傷つける人、周りから人が離れ、寂しい思いをしている人。もしそういう人たちに、たった1人でも気持ちを受け止めてくれる人がいたら、その人は変われるかもしれない。話を聞くことを通して誰かに寄り添える人を1人でも増やしていきたい」と。

自分の話を聞いてくれる人の存在は、まさに暗闇にいる人にとっては、出口を示す一筋の光になるのです。

これまであなたの話を聞いてくれた人たちへ

振り返ってみてください。
今まであなたも生きてきた中で、つらかったこと、理不尽な扱いを受けたこと、孤独を感じたこと、おそらくそうしたつらい時期があったと思います。
その時、あなたの味方になってくれ、話を聞いてくれた人はいませんでしたか?
私にもそういう人たちがいます。
その瞬間はつらくて何も考えられない状況でしたが、今振り返って、その時、話を聞いてくれた人たちへの大きな感謝が湧き上がってきます。
つらいことや悲しいことがあった時、たった1人でも自分の話を聞いてくれた人がいてくれることで安心感をもらえます。
前に進むことができるようになります。

人の話を聞く。これは一見地味なことかもしれません。
しかし、与える安心感は、相手にとって想像以上に大きなギフトなのです。
たった1人でもいい。今度はあなたが安心感を与える側に回ってください。
話を聞いてもらいたい人が、あなたのことを待っています。

100%好かれる聞き方のコツ

聞き方を磨いて、人の孤独を照らす一筋の光になる

* * *

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永松 茂久(ながまつ・しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN 代表取締役。大分県中津市生まれ。2001年、わずか3坪のたこ焼きの行商から商売を始め、2003年に開店したダイニング陽なた家は、口コミだけで県外から毎年1万人を集める大繁盛店になる。自身の経験をもとに体系化した「一流の人材を集めるのではなく、今いる人間を一流にする」というコンセプトのユニークな人材育成法には定評があり、全国で多くの講演、セミナーを実施。「人の在り方」を伝えるニューリーダーとして、多くの若者から圧倒的な支持を得ており、講演の累計動員数は延べ45万人にのぼる。著作業では2020年、書籍の年間累計発行部数で65万部という記録を達成し、『人は話し方が9割』の単冊売り上げで2020年ビジネス書年間ランキング1位を獲得(日販調べ)。2021年には、同じく『人は話し方が9割』が2021年書籍の年間ベストセラーランキングで総合1位(日販調べ)、ビジネス書部門でも2020年に続き、2年連続1位(日販調べ)に輝く。トーハンでも2021年ビジネス書年間ランキング1位に。著書は『人は話し方が9割』『人は聞き方が9割』『喜ばれる人になりなさい』(すばる舎)など多数あり、累計発行部数は285万部を突破している。


 

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