マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。今回は、部下を成長させるのに必要な適度なストレスについて考察します。

はじめに

近年、マネジメントの現場では「心理的安全性の向上」や「ワークライフバランスの充実」が至上命題となっています。過重労働を是正し、ハラスメントを根絶して社員の心身の健康を守ることは、組織の持続可能性や採用力の観点からも極めて健全かつ合理的な判断です。

しかし、特に人手不足が常態化している中小企業や、個々の守備範囲が広い少数精鋭のチームにおいて、ある「逆転現象」が起きています。「職場環境を改善し、部下に優しく接するようにしたはずなのに、以前より成果が出なくなった」「若手社員の責任感が希薄になり、言われたことしかやらない『指示待ち人間』が増えた」「離職を恐れて強く言えない結果、ベテランばかりが忙しくなっている」……。

このような悩みを持つ経営者や管理職は少なくありません。実は、恐怖や不快を排除しようとするあまり、人が成長するために不可欠な「良質なストレス」までも取り除いてしまっている可能性があるのです。

組織の成長を止めてしまいかねない「優しさ」について、識学の見地からご説明いたします。

ストレスの正体:それは「悪」ではなく「成長の種」

まず定義を明確にすべきは、「ストレスやプレッシャー=悪」という固定観念です。私たちがこれまでのキャリアを振り返ったとき、最も成長を実感したのはどのような瞬間だったでしょうか。おそらく、それは何の不安も緊張感もない平穏な日々ではなく、適度な責任を伴う目標や、期限に追われる緊張感、あるいは「自分にできるだろうか」という不安と戦いながら行動した経験の中にあるはずです。

「できない」という不快な状態から、工夫と試行錯誤を経て「できる」ようになるプロセス。この積み重ねこそが成長の正体です。

最初からすべてを完璧にこなせる人間は存在しません。したがって、心身を破壊するような過剰な負荷は排除すべきですが、能力を伸ばすための「健全なプレッシャー」は、むしろ部下へのギフトとして設計されるべきなのです。

「みんなで協力」の裏側に潜む無責任の罠

特に新卒や若手を抱える組織で陥りやすいのが、「無理をさせたくない」「辞められると困る」という過度な配慮です。その結果、以下のような現象が起こります。

  • 目標の下方修正と期限の緩和:本来達成すべき基準を下げ、期限を曖昧にする。
  • 評価の形骸化:差をつけない横並びの評価を行い、フィードバックを避ける。
  • 業務の抱え込み:「失敗されると現場が回らなくなる」という恐怖から、難しい仕事を上司が引き受け、若手には安全なルーティンワークだけを任せる。

一見すると穏やかで「働きやすい」環境に見えますが、そこでは仕事の基準が静かに低下しています。本来、若手時代にマルチタスクを経験し、失敗を前提とした試行錯誤を繰り返すべき時期に、挑戦の機会が失われているのです。

さらに、「みんなで協力しよう」「できる人がフォローしよう」という美しいスローガンが、責任の所在を曖昧にします。最終的な責任者が不明確な仕事には締まりがなくなり、部下は「誰かがやってくれるだろう」という甘えを抱くようになります。人は、「あなたに任せている」「結果を期待している」という明確な個別の責任を与えられない限り、真の意味で本気になることはできないのです。

「良質なストレス」の設計

経営者や管理職が取り組むべきは、ストレスを「ゼロ」にすることではなく、その「量と質を調整する」ことです。

1.フィードバックの即時性と事実化

人間関係が近い小規模組織ほど、厳しい指摘を避けて「今回は目をつぶろう」と先送りにしがちです。しかし、これは改善の機会を奪う「コストの先送り」に他なりません。成長には「今の自分はできていない」という事実を直視する瞬間が必要であり、そこに伴う多少の気まずさや緊張は避けて通れないものです。感情ではなく、設定した期限や目標に対して「できたか・できなかったか」の事実に基づき、淡々とフィードバックを行うことが重要です。

2.「7割の可能性」への権限委譲

実務において有効なのは、完璧にできる人に任せるのではなく、「7割くらいはできそうだ」というレベルの若手に意図的に仕事を任せることです。その際、「困ったら相談していい」「最終責任は自分が取る」と明言し、逃げ道を確保した上で、実行のプロセス(やり方)は本人の裁量に任せます。これにより、若手は適度なプレッシャーの中で自ら考え、工夫し、完遂しようとする姿勢を身につけていきます。

3.モチベーションの勘違いを正す

「褒めて伸ばす」ことでモチベーションを管理しようとする手法には限界があります。識学では、モチベーションは外部から与えられるものではなく、目標に向かって試行錯誤し、ゴールが見えてきた段階で自己発生するものと考えます。経営者や管理職の役割は、機嫌を取ることではなく、部下が本気でやり切れる環境(明確な目標と責任)を整えることにあるのです。

心理的安全性の本当の意味

多くの経営者や管理職が誤解している「心理的安全性」についても再定義が必要です。組織における真の心理的安全性とは、決して「叱られないこと」や「楽ができること」ではありません。それは、「高い目標に挑戦して失敗したとしても、それだけで人格や存在を否定されたり、切り捨てられたりしないという安心感」のことです。成果への厳しい期待と、失敗から学ぶための余地。この両方を同時に提示することこそが、次世代を育てることにつながります。

まとめ:負荷の設計が経営の分かれ道

ストレスやプレッシャーの少ない職場は、短期的には安定をもたらしますが、長期的には組織を脆弱にします。適度な緊張感を失った組織は、経営者への依存を強め、自ら考える力を失い、最終的には成長意欲の高い優秀な人材から順に「物足りなさ」を感じて離職していくことになります。

組織と人を守るということは、単に負荷を下げることではありません。人を壊さず、かつ着実に伸ばすために、どのような「良質な負荷」を業務の中に組み込めるか。その成長の設計図を描けるかどうかが、組織が停滞するか、飛躍するかの分かれ道になるのです。

識学総研:https://souken.shikigaku.jp
株式会社識学:https://corp.shikigaku.jp/

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
7月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店