取材・文/大津恭子
定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。
[お話を伺った人]
後藤智仁さん(仮名・53歳)自動車メーカー勤務。犬を飼ったことで生活リズムができ、定時退社に努めるようになった。
後藤朝子さん(仮名・49歳)専業主婦。夫の転勤に伴って5回引っ越し、社宅住まいを経験してきた。
苦痛の原因は、犬友同士の「おはようございます」と声をかける習慣
「おはようございます。りんちゃんパパですか?」
年々多忙になる妻に代わって、春から愛犬の朝の散歩を始めた後藤智仁さんは、ある朝犬連れの女性から、「りんちゃんパパ」と声をかけられた。慣れない呼び名に戸惑いもあったが、今ではすっかり馴染んでいる。
りんちゃんは、3年前に後藤家にやってきたトイプードル。愛娘がひとり暮らしを始めたため、会話が乏しくなった夫婦に明るい話題を振りまいてくれる、大切なニューファミリーだ。朝晩の散歩が欠かせないが、約2年半、ほとんどの世話を妻・朝子さんに任せてきた。
ところが、今年の健康診断の結果、中性脂肪や尿酸値の値が高いことが判明、医師のすすめもあり、朝の犬の散歩が智仁さんの日課となった。今ではすれ違う犬の特徴はほぼ把握しているそうだ。
しかし、智仁さんは、日に日に朝の散歩が面倒になってきているという。
苦痛の原因は、犬友(犬の飼い主仲間)同士の「おはようございます」と声をかける習慣だ。
「下手すると、20メートルおきに『おはようございます』でしょう? 2キロ歩いたら100回ですよ。向こうが挨拶してくれるから、無視したら失礼だと思ってこっちも言いますけど」(智仁さん)
そのほかにも、面倒なことがいくつかあるらしい。
トイプードルは人気の犬種なため、別のトイプードルとすれ違う機会が多い。トイプードルを連れたご婦人ににこやかに話しかけられると、立ち止まって雑談に応じなければならない。必要以上に着飾っている犬を気の毒に思いながら、「かわいいですねぇ」などと持ち上げるのも苦手なのだそうだ。
数日前は、自宅の庭が広いことを自慢する飼い主に出くわした。
「『いいですねぇ、うらやましいですね』としか言い様がない。別にうらやましくもなんともないのに。気を良くして『今度、りんちゃんと遊びに来てくださいよ』なんて言われようものなら、断るのがたいへんですよ。こっちはそこまでヒマじゃない」(智仁さん)
【大威張りの犬おばさんは、お世話になっている上司の妻!? 次ページに続きます】