文/印南敦史
たとえば、肌の調子が悪い、手足が冷える、胃がムカムカする、寝ているときに足がつる、すぐ疲れてしまう、朝ぼーっとしてしまう、代謝が悪く太りやすい、イライラしやすい、だるくてやる気が出ない……などなど。
どれも日常生活でよくあることだが、『免疫力を高める塩レシピ』(白澤卓二 監修、青山志穂 著、あさ出版)の著者によれば、その原因はミネラル不足なのかもしれないのだという。たとえ他の栄養素が充足していたとしても、体の潤滑油であるミネラルが不足していると、体はうまく機能しないというのだ。
人間は代謝を繰り返しながら生命活動を維持しているが、当然ながら代謝には「酵素」が必要だ。ちなみに代謝をサポートする酵素を「代謝酵素」と呼ぶ。
代謝を助ける「酵素」が円滑に働くには「ミネラル」が必要
人間の体内には約5000種類の酵素が存在しており、それぞれ別の働きをしています。酵素が円滑に働くには、ミネラルが欠かせません。ミネラルは、ビタミンと共に酵素の働きを助ける「補酵素」だからです。(中略)
そのため、いくら酵素をたくさん摂取する食生活を心がけていたとしても、ミネラルが足りていなければ、酵素はその働きを全うすることができません。(本書22ページより)
ミネラルはイオン化された状態でないと吸収されないため、自然な形で食品から摂取する必要がある。そういう意味で、とても効率的なのが「塩」だ。
だが日本人は、ミネラルが不足しやすい環境にある。日本の水は軟水で、ミネラル(マグネシウム、カルシウム)が少なく、土壌にもミネラルが少ないからだ。また近代の農薬の使用や栽培方法の変化などにより、農作物に含まれるミネラルの量は減少傾向にあるのだという。
しかもミネラルは体内に溜めておけないため、排泄の際、活動に不必要だったミネラルも一緒に排出される。だからこそ、意識してミネラルを摂取する必要があるわけだ。
ところで、そもそもミネラルとはどういうものなのだろうか?
ミネラルは、「人間の身体の約4%を占める炭素を含まない無機質のこと」で、全部で108種類あるといわれているそうだ。たとえばカルシウム、リン、カリウム、鉄、亜鉛など、しばしば耳にする栄養素の多くがミネラルに含まれている。つまり、一概にミネラルといっても種類は多種多様で、それぞれがまったく異なる働きをしているのだ。
また、どれかひとつを摂ればいいわけではなく、バランスよく摂取することが大切だ。
だが気になるのは、よく耳にする「塩は健康によくない」「減塩したほうがよい」という話ではないだろうか? 「塩を摂ると高血圧になる」といわれることも珍しくなく、事実、高血圧で医者にかかると、「減塩しなさい」といわれることがある。
だが著者によれば、塩が高血圧の原因か否かという論争には決着がついていないのだそうだ。さらに厚生労働省が発表している1日の推薦塩分摂取量にも、明確な根拠がないのだという。
もちろん、過剰な摂取がよくないことは明らかだろう。しかし、いまや常識のようになっている「塩は健康によくない」という考え方の背景には、偏った情報の存在があるということなのかもしれない。
人それぞれに適した量の塩を摂る「適塩」が大切
だとすれば、塩を摂取するうえでなにを意識すればいいのか? この問いに対して著者は、次のように答えている。
居住地域、生活環境、運動強度、年齢などにより、必要とされる塩分量はさまざまです。塩に限らずですが、なんでも摂りすぎては体に悪影響を及ぼしますし、逆に極度に摂らなさすぎても同様です。
大切なのは、その人それぞれに合った適切な塩を適切な量で摂取すること、それを「適塩」といいます。(本書42ページより)
ちなみに、ミネラルが足りているかどうかをチェックする簡単な方法があるようだ。塩分濃度約0.9%の塩水(生理食塩水)を飲むことで、体内のミネラルの重速度を推し測ることができるというのだ。
1.水が入った500mlのペットボトルに塩4gを入れてよく振る
2.毎朝、ペットボトルのキャップ1杯分程度を飲む
その結果、(味覚障害や痛覚が麻痺している場合を除けば)「おいしい」と感じれば、体に塩が必要な状態。過剰摂取にならないよう意識しつつ、ミネラルを多く含む食事を心がければいいわけだ。
逆に「しょっぱい」と感じたのであれば、すでに体には十分な塩分があるということ。したがってその際は、塩分の過剰摂取に注意し、ナトリウムの排出を促すカリウムを多く含む食品(生野菜や果物など)を摂取するといい。
ざっと簡単にご説明してきたが、こうした“基本”に基づいて、本書ではより具体的な「適塩生活」の方法を紹介している。塩についての基本的な知識はもちろんのこと、タイトルにあるとおり、適塩生活を実現するために役立つ「塩レシピ」も多数紹介されている。
写真も豊富に掲載されているので、気になるメニューを試作してみて、気軽に「適塩生活」をスタートしてみてはいかがだろうか?
『免疫力を高める塩レシピ』
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。