文/柿川鮎子

コロナ禍で家にいる時間が増えて、うっかりチョコレートをテーブルに出しっぱなしにして、ハッとしました。これを犬が食べていたら大変です。

これから夏にかけて、犬と一緒にバーベキューを楽しむ機会も増えてきます。今回はひびき動物病院の院長岡田響先生に、夏に多い、犬の誤食事故について教えていただきました。

岡田先生は「最初に緊急事態宣言が出された頃にお迎えされた子犬たちが成長して、今、みんないたずら盛りになってきました。いろいろなことを体験して、成犬へと成長している最中でしょう、そんな時に多いのが誤飲・誤食事故です」と言います。

犬ではなく飼い主が判断して事故を防ぐ

――岡田先生、「○○、食べちゃったんですけど」という問い合わせは多いのですか?

岡田 犬も猫も鳥も小動物も、おうちにあるものを食べてしまって起こる事故は少なくありません。むしろコロナ禍のせいか、最近少し多いように思います。

飼い主さんの目の前で食べちゃうこともありますし、いつの間にか食べてたということもかなりあります。お留守番の時にお部屋を荒らされたり、というケースもあります。

こうした事故は、どちらかというと若い犬に多いので、私としては「ペットを飼う人が増えた結果かな?」と、うれしい反面、ワンコと家族にとっての「突然の災難を防ぐ方法は、何度もうるさく言わないといけないな」、と思います。

コロナ禍で誤飲誤食事故は増えている印象に

――そもそも犬はどうして誤食してしまうのでしょう。

岡田 それはいろいろな要因がたくさんあります。その子の性格や環境によって原因はさまざまですが、幼少期や活動的な子に目立ちます。

無邪気なしぐさがとてもかわいらしい幼少期は、いろいろなモノに興味津々です。それに加えて幼少期から成年期には活発に動いて活動性がアップします。

本来は運動などで発散されるべきエネルギーを、お留守番などで家の中にいることで、ため込んでしまい、どこかにエネルギーを放出しようとして一生懸命に遊びます。

お散歩や追いかけっこなど、体を動かすことでため込んでいるエネルギーを発散できれば良いのですが、発散が間違った方向に向いてしまい、タオルやおもちゃなどに必要以上に執着して壊したり、口にしてはまずいものや危険なものを食べてしまうケースがあります。

犬にとっては「それを口の中へ入れてはいけない」という認識がそもそもないので、そういうことをしている時は、「何?」っていう顔をしながら得意げに噛み続けているかもしれません。

――では、食べてはいけないものを食べられないように保管するのが正解ですね?

岡田 その通りです。事故防止のためにも、教育のためにも、食べ物もおもちゃもヒトのものも、出しっぱなしにしないで開けられないところにしまっておく、留守番の時は居場所を制限するなど、環境整備が大切です。

もちろん賢い犬は「食べてはいけない」と学ぶこともできますが、それよりも、飼い主さんご自身が意識を変えて、いじらせない食べられない工夫が大事です。

夏の食べ物で意外と危険なトウモロコシの芯

――夏に多くて意外と見落としがちな物はありますか?

岡田 トウモロコシ、焼き鳥やバーベキューの串、乾燥材や保冷材のパックでしょうか。こうした季節のものもありますが、異物や危険物の誤飲・誤食事故は1年を通して見られます。

トウモロコシの実を食べるのは通常問題ありません。芯が問題です。ヒトは芯を食べるものと思っていないと思うのですが、いくつかに分断(分割)してあるトウモロコシだと、犬は結構そのまま芯ごと食べて(飲んで)しまうのです。

トウモロコシの芯は消化できないので、誤食すると異物やおもちゃの誤飲と同じです。腸閉塞などになってしまうので、ゴールデンなどの大型犬であっても、「手術で摘出」となる確率が高くなります。

飲み込むとやっかいなトウモロコシの芯

焼き鳥などの串や割りばしは、(ペットの)救急病院でよく緊急手術になる原因の一つだと報告されています。飲み込んでしまった場合は、すみやかに内視鏡や手術などが検討されます。

乾燥材や保冷材も、結構かじられています。中身に中毒物質が含まれていることもあるので注意が必要です。

ほとんど保存剤は食材に添付されているもののため、食材と一緒に食べられており、中毒物質に対する治療と、急性代謝異常の治療の二つが、並行して行われることがほとんどです。

一般的にヒトの食べ物は犬にとっては高脂肪食や高塩分食なので、急性高脂血症などで内臓の負担になることがあり、治療が必要になります。多くのケースでヒトのおいしい食材が与えられるので、ほとんどの犬は量をたくさん食べており、入院となるケースも珍しくありません。

梅干しや果物の種も腸閉塞がたまにあります。夏だと桃の種は注意してください。果物は実の部分を分け与えている方が多いので、犬は味を知っているのですが、種を知らずに一緒に飲んでしまうのです。

果物つながりですと、以前、『犬の飼い主は絶対知っておくべき「夏のキケンな果物」はブドウ』(https://serai.jp/living/314361)をご紹介したことがありました。ブドウは干しブドウなども危険な場合があります。

事故を目撃した飼い主さんが落ち着くこと

――万が一、こうした物を犬がくわえていたらどうしたらよいでしょう?

岡田 くわえている現場を見つけた時には、大声を出したり、急に取り上げようとしてはいけません。

犬はそれを取られまいと感じて、あせって飲み込んでしまうことが多いからです。飼い主さんはあわてず、どうしたらくわえているものを渡してもらえるか、まず落ち着いて考えてみましょう。

焦って大声で怒ってしまうと、「大変!! 取られる!!」と思ってそれを慌てて飲んでしまうかもしれません。

本当はよくない条件づけですが、もっと美味しい犬用おやつなど、他の何かと交換するか、お散歩に誘ってみるとか、別のもので気を引かせてみましょう。

無理やり引っ張るとかえってあわてて飲み込んでしまうことも

――飲み込んでしまったら?

岡田 一刻も早くかかりつけの動物病院に連絡して、先生と相談してみてください。そして病院に行くときは何をどれぐらい食べたかがわかるように伝えてください。もし食べたものが残っていたらそれをビニールに入れて持ってきてください。

食べてよいものと悪いものを、犬は知りません。こうした誤飲誤食事故は、慣れてきたころにやってくるトラブルです。ぜひ気を付けながら楽しい夏休みをお過ごしください。

ありがとうございました。コロナによる在宅勤務や通勤再開などの変化にも対応しながら、岡田先生のアドバイス通り、誤飲誤食を防ぐ環境づくりをもう一度見直してみようと思います。そして今年も愛犬と楽しい夏の思い出をたくさんつくれますように。


取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/

文/柿川鮎子 明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

 

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