取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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“恋”をするアラカン男性の多くは、ショルダーバッグの斜め掛けをしていない
今回、お話を伺ったのは松田大和さん(仮名・64歳)。山口県で生まれ育ち、東京の国立大学に進学。卒業後は大手企業に勤務し、エンジニアとして活躍。現在も再雇用先の企業で顧問として後進の育成に携わっている。
松田さんは趣味で声楽をやっているので、美しいバリトンボイスの持ち主だ。体型は中肉中背だが、背筋がピシッと伸びていて、若々しい印象を受ける。
ファッションはレモンイエローのポロシャツにチノパンツ。いずれも有名ブランドのもので、パリッとしておりクリーニングに出していることがわかる。バッグは若者に人気のブランドのナイロン素材のトートバッグだ。このインタビューを続けていて感じるのは、“恋”をするアラカン男性の多くは、ショルダーバッグの斜め掛けをしていない人が多い。
「服は出戻りの娘のアドバイス通りに着ているんだよ。今、4歳の孫娘と、34歳の娘、同じ年の女房の4人で暮らしているんだけれど、私と女房で孫の保育園のお迎えや、行事でてんやわんやしているよ。どうも娘は“おしゃれなジイジ”でいてほしいらしくて、あれこれと服を買ってきてくれて『パパ、運動会の時はこれ着て来て』と強引に押し付けてくるんだよ」
松田さんのお嬢さんは大手企業でマーケティングの仕事をしている。
「まあ誰に似たんだか気が強くて(笑)。子供作ってすぐ離婚して、ウチに転がり込んできた。最初は『みっともない』なんて言っていたウチの女房は、自分そっくりの見栄っ張りで都会的な娘がかわいいみたいで、よきサポーターとして大活躍している。孫の小学校受験のための塾通いだ、習い事だと躍起になって、最近はグッと若返ったよ。私のような老人の世話をするよりもやりがいはあるだろうからね。娘は金も稼いでいるし、頭もいいし、リーダーシップもある」
【老後の計画が大きく変わってしまった出戻りの娘との同居。次ページに続きます】