文/鈴木拓也
就寝中に、ふくらはぎの筋肉が突然収縮して起こる「こむら返り」。あの激痛は二度と経験したくないものだが、年齢とともに起こる頻度は増す。60歳以上になると、6%の人が毎晩こむら返りに苦しめられているという。
「辛いことは辛いが、単なる筋肉痛だろう」と侮るなかれ。こむら返りを頻繁に起こしている人は、「その後、脳梗塞になったり、ガンを発症したりする例が多い」と指摘するのは、市橋クリニックの市橋研一院長だ。
市橋院長は、著書『こむら返りは食事で治せる!』(マキノ出版)の中で、こむら返りの背景には「重篤な病気」の可能性が潜んでいるとする。だから、来院者に「こむら返りが起こるかどうか」を聞き、他の病気のリスクの指標にしていると述べている。
微小血管系の異常が大きな要因
市橋院長によれば、こむら返りが起こる原因はさまざまだそうで、水分の不足や筋肉の疲労も含め、複数の要因が複雑に絡み合っているのではと示唆する。
医学的にはまだ完全に解明されていないそうだが、市橋院長が注目しているのが「微小血管系の異常」だ。
微小血管系とは、全身の血管の95%以上を占める毛細血管を中心とした循環システム。ここに異常が生じると、「血液だけでなくリンパ液など、体液全般の流れ」が悪化すると説く。
また、加齢によって毛細血管は減ってゆくそうで、60代では30%も減るといわれる。この現象を毛細血管の「ゴースト化」と呼ぶ。ゴースト化が進むと、体液の循環が悪くなって、疲労物質や老廃物が回収されにくくなる。そのせいで筋肉疲労が慢性化し、(筋肉の伸び過ぎ・縮みすぎを防ぐ)筋紡錘・腱紡錘が誤作動を起こして、こむら返りが起こるという。
こむら返りを引き起こす生活習慣
市橋院長は、毛細血管の「ゴースト化」の原因として、加齢のほかに「交感神経の優位(持続的緊張)が続く生活習慣」を挙げる。例えば、以下のような習慣だ。
・ストレス過多
・睡眠不足
・眼精疲労
市橋院長が「悪しき生活習慣」として取り上げるのは、これらにとどまらない。深酒や喫煙も入っており、つまるところ、素人目にも身体に良くないとわかっていることは、見直すことが必要となる。
さらに、「砂糖・小麦」も控えるよう指南されているが、これは、血糖値を急上昇させやすく、結果として交感神経の優位をもたらしてしまうから。本書には、菓子パンが好物であった患者が、それをやめたことで「こむら返りがほとんど起こらなくなった」というエピソードが紹介されている。これは、生活習慣の改善でこむら返りが回復した好例だ。
和食で腸内環境を整える
砂糖・小麦とは逆に、推奨されている食習慣が和食。その理由は「腸内環境をよくする」からだという。
腸内環境が悪いと、セロトニンと呼ばれるホルモンの分泌が減り、また老廃物が蓄積しやすくなる。そのいずれもが、こむら返りの一因になるという。和食は、その改善に役立つそうだ。
具体的には、雑穀か白米を主食とし、魚と肉を4対1くらいの頻度で副食に加え、野菜、果物、海藻、キノコ、発酵食品を積極的に摂る。白米は、小麦と同様に糖質が多いが、吸収速度が遅く、日本人の体質に合っているそうで、過食しない限り問題ないという。
脱水にはくれぐれも注意
今の暑い季節に注意したいのが、脱水のリスク。
夏場の脱水といえば、熱中症と関連して語られることが多いが、実は腱紡錘の機能低下も招き、こむら返りが起こりやすくなる。
脱水とは、暑さや運動で多量に発汗し、体内の水分が急速に失われると、細胞のナトリウム濃度を一定に保つ仕組みがバランスを崩してしまうことだが、ウォーキング程度の発汗でも起こることがあるという。
その対策として、運動前後・運動中にミネラルウォーターを飲むというのが一つ。また、ミネラルバランスをとるため、カリウム、カルシウム、マグネシウムを豊富に含む食材(果物、小魚、海藻等)も意識して摂ることを、市橋院長はすすめている。
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こむら返りは、身体の多くの不調要因が関わることから、「全身病」だと市橋院長は表現する。しかし、その対応策は明快で、誰にでも取り組みやすいものだ。また、ここでは割愛したが、こむら返りの症状が出た際に、即効で効く方法もいくつか記されている。この症状に悩む人には参考にしてほしい、おすすめの1冊である。
【今日の健康に良い1冊】
『こむら返りは食事で治せる!』
https://www.makino-g.jp/book/b502671.html
(市橋研一著、本体1400円+税、マキノ出版)
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。