暮らしを豊かに、私らしく

文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

カリフォルニア州アーバイン市の街路樹。

南カリフォルニアでは例年5月下旬から6月後半までの間、「ジャカランダ」という樹木が一斉に紫色の花を咲かせます。枝ぶりの大きな木を花が覆うことやその季節にだけ咲くことが日本の桜に似ているような気もします。

元々は南米原産の植物で、カリフォルニアには19世紀ごろに広まったとされています。カリフォルニアの温暖な気候と土壌に合っていたらしく、現在では街路樹などに広く使われ、すっかり当地に初夏の訪れを告げる風物詩のひとつになりました。

明治時代の日本人移民がメキシコの首都に贈った「紫の桜」

カリフォルニア州アーバイン市の街路樹。

私は訪れたことがありませんが、メキシコの首都メキシコシティも春にはジャカランダの花で街中が埋め尽くされるそうです。そしてそこには興味深いひとつの歴史的挿話があります。

明治時代には多くの日本人移民が中南米に渡りました。そのなかのひとりである松本辰五郎さんがメキシコシティの街路樹にジャカランダを導入することを約100年前に当時の大統領に進言したのだそうです。

元々は日本の桜をメキシコに贈るという計画があったのですが、辰五郎さんはメキシコの気候が桜には合わないと考え、その代わりに南米からジャカランダを輸入して植えることを提案しました。

辰五郎さんは庭師だったということですが、優れた都市計画者であり景観デザイナーでもあったようです。

同じ頃にカリフォルニアではケイト・セッションズさんという女性造園家がサンディエゴのバルボアパークにブラジルから輸入したジャカランダを植林しました。

コロナ禍のなかでの高校卒業とジャカランダの思い出

高校のキャンパスに咲くジャカランダ。

日本の桜が卒業や入学の思い出と結びつくことがよくあるように、南カリフォルニアではジャカランダの季節は卒業式の時期と重なります。

アメリカでは殆どの地域で8月末から9月初めの頃に新学年が始まり、6月頃に学年末を迎えます。とくに高校の卒業式は日本で言う幼稚園年長から高校3年までの13年間という長い義務教育を終える大切なイベントです。

年によって多少の変動はありますが、南カリフォルニアでジャカランダが咲くのは5月下旬からの約1か月間くらいです。つまり、高校を卒業したたくさんの18歳たちは、満開のジャカランダを背景に生まれ育った土地から巣立っていくのです。

ところが、卒業式もパーティーもできなかった年があります。言うまでもなく2020年、世界が新型コロナウイルスのパンデミックに覆われていた年です。

2020年の6月はカリフォルニア州全域がロックダウンされていました。学校も職場も商業施設もほとんどが閉鎖され、家族以外で人が集まることさえ禁止されていた、まさに最悪の時期でした。当然のように、卒業式も中止になりました。そして極めて個人的なことですが、私の息子もその年に高校卒業を迎えた2020年クラスのひとりだったのです。

「ドライブスルー」形式で卒業証書を高校の駐車場で受け取り、それで息子の高校生活はおしまいになるはずでした。残念だけど、仕方ないよね。私を含めて、ほとんどの親はそんな風に諦めていたと思います。

ところが、世の中には素晴らしいアイデアを持ち、そしてそれを実行するための労力を厭わない、そんな偉い人がいます。ある保護者のひとりが学校組織を通さずにボランティア有志を募り、警察など市当局にかけあって、卒業生たちが高校周辺を車でパレードするイベントを実現させたのです。

その日、伝統のガウンを着込んだ卒業生たちはオープンカーやトラックの荷台に乗り込み、10キロくらいの周回道路をゆっくりと回りました。道路沿いには多くの住民が立ち並び、歓声と拍手で卒業生たちの門出を祝い、満開のジャカランダが色を添えていました。 

2020年6月4日に行われた自主卒業パレード。

私は息子と友人たちを乗せたオープンカーを運転していました。最も忘れがたいジャカランダの思い出です。

宮崎県日南市にある「ジャカランダの森」

ジャカランダは日本ではあまり見られません。南米原産のこの植物は日本の気候に合わないのでしょう。それでも、北米や南米大陸に出かけないと見ることができないというわけではありません。宮崎県日南市には約1,000本ものジャカランダが植えられた群生林があります。

「ジャカランダの森」は宮崎空港から車で約1時間、「道の駅なんごう」のすぐ近くにあります。見頃は5月下旬から6月末までとのこと。日本では珍しい「紫の桜」を見るためだけでも、足を運んでみる価値はあると思います。

ジャカランダの花近影。

道の駅なんごう公式ウェブサイト:https://www.michinoeki-nango.jp/ 

文・角谷剛
日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 


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