
浪曲は自由で可能性を秘めた芸です。「一人一芸一ジャンル」と呼ばれるほど幅があり、声で魅了する人もいれば、古典で聞かせる人、私のように新作を積極的に作る人もいます。新作が作りやすく、喩えるならレゴのブロック。ブロックを組み立てるようにどんなものでも浪曲になります。
持ちネタ『地べたの二人』というシリーズの「おかず交換」を紹介しますと、ドラマはまったく起きません。地べたに座ってお弁当を広げた上司と部下が、焼き鮭とタルタルソースのかかった唐揚げを交換するだけの話です。
2015年に初めて、お客さんに披露したのですが、予想以上に笑っていただき、浪曲の持つ力に驚きました。笑いはフリとオチが大事ですが、浪曲は、〽からあげにぃぃぃタルタァ~~〜ルゥゥ、とうなるだけで、どっと沸きます。
いろんなものを浪曲にするというのは、私の専売特許ではありません。家を出てから寄席に来るまでの道中を即興で浪曲にした名人もいますし、その日の天気予報をうなった浪曲師もいたそうです。

曲師 玉川みね子

「笑い」に振り切りたい
2017年から落語家の春風亭昇々さんたちと「ソーゾーシー」というユニットを組んで活動しています。こうした他流試合といいますか、他芸の方との交流は勉強になります。浪曲のファン層を広げることにもつながります。
師匠の玉川福太郎は、「待ってちゃだめだ」と、小さな集会や他芸との勉強会に積極的に出ていました。『月刊浪曲』という数十年前の専門誌を見ると、師匠の出演情報欄に「○○宅勉強会」との記述があります。個人のお宅です。入門3か月足らずで師匠を亡くしましたので、私の他流試合の話はできませんでしたが、きっと喜んでくれると思います。
私にとっては、日常がすべて浪曲のネタ。例えば、修業中に大家さんからママチャリをいただいた話は『自転車水滸伝』に、日々の銭湯通いは『銭湯激戦区』という一席になりました。今も通勤中は、自転車を漕ぎながら浪曲をうなっていますので、周囲の人に驚かれることが少なくありません(笑)。
浪曲というと『瞼の母』や『赤穂義士伝』など、涙を誘うネタを思い浮かべる人が多いようです。しかし、私は「笑い」を取ることにこだわりたい。ここまで笑わせることに振り切った浪曲師は、過去にいなかったと思います。

この演目を聴きたい
地べたの二人〜おかず交換
新作のシリーズ。作業着姿の上司と部下の何気ない日常を浪曲に仕立て上げた。中でも、作業現場での昼食風景を描いた「おかず交換」は、最初から最後まで笑わせてくれる。
「唐揚げにタルタル?」
この組み合わせを初めて聞きました、
50代斎藤の心に浮かんだのは
からあげにぃぃぃ
タルタァ〜〜〜ルゥゥ
食べてみたぁ〜い
取材・文/角山祥道 撮影/橘 蓮二
※『サライ』2026年4月号より












