豊臣秀吉による「文禄・慶長の役」により招致された李朝陶工・尊楷。そして西国大名の中でも特に茶道に精通したという豊前小倉藩主・細川忠興。このふたりの邂逅が400年の歴史を作り出した焼き物、それが福岡県田川郡福智町の上野焼である。
国の伝統的工芸品の指定を受ける上野焼の特徴は、他の陶器に比べて極めて軽く、薄づくりであること。しかしその中に、しっかりと芯が通った力強さを感じる。決して派手さはないが、毎日使っても飽きない存在感を放つ。
そんな上野焼の窯元として、1971年に築窯されたのが「庚申窯」である。庚申窯は初代・髙鶴智山さん、2代目・髙鶴享一さん、3代目・髙鶴裕太さんと、3代にわたって上野焼を焼き続ける。
「いちばん大事なのは道具としてのフォルム。それがカップなら、飲みやすい口の作り方に最も気を使う」という2代目・享一さん。「お店や個人など、使う人が欲しがっているものを聞き、それを実現することが楽しい」と語るのは3代目・裕太さん。
歴史ある焼き物は美術品、鑑賞物であると考えがちだ。しかし庚申窯は、美しさだけでなく、あくまで道具として人に使われることに喜びを感じる作品づくりを目指す。
今回ご紹介するのは、豆皿4色のセットである。上野焼の特徴でもある緑青流しをはじめ、趣のある4色をそろえた豆皿は、付き出しを盛って使うのが似合う。「自分が楽しんで作って、お客様に使ってもらいたいという気持ちで作ったものは、不思議とすぐにお客様が手に取ってくれるんです」という享一さん。400年の伝統に、彼らの個性とこだわりが結実した焼き物で、ぜひ優雅な毎日を過ごしていただきたい。
【今日の逸品】
上野焼・豆皿4色セット
庚申窯
6,600円(消費税込み)