2020年1月以降に発売、発表され、話題になった商品やサービス等から、ヒットした商品、使いやすい、体験したいサービスなどを、 サライ読者の投票と選考委員によって選定されるアワード「サライ大賞」。

20回目を迎える今年は、審査員の方々や審査項目などを全面的にリニューアルいたしました。また、「サライ大賞2021」の発表は動画番組で12月31日(金)まで配信しています。

各部門を受賞された方に贈呈しているトロフィーですが、今年のリニューアルに合わせて、仏像を造像する手法と同じ材料を用いて新しくデザインをつくり変えました。

トロフィー制作をお願いしたのは彫刻家・修復家の重松優志さん。

芸術の殿堂・東京藝術大学大学院の彫刻専攻を修了された後、日本の彫刻文化財を修復・保存する研究を行う「保存修復彫刻研究室」にて研鑽を積まれます。その文化財保存学専攻を首席で修了され、修了作品は大学美術館に買い上げとなるなど、在学中から才能を遺憾なく発揮されていました。博士後期課程を卒業後は、彫刻家として活動するほか、研究室で講師として学生の指導や、国内外の仏像や彫刻を制作・修復する次世代を担う期待の星です。

神護寺薬師如来坐像の模刻(模写の彫刻版)。本物と見紛うほどの彫刻技術や、制作当時から現在までの期間、経年変化したかのように見せる表面の彩色に、重松さんの実力の高さがうかがえる。
博士後期課程では、東大寺法華堂の執金剛神立像の技法を研究するため、当初の仏像と同じ大きさの塑像(そぞう、粘土製)と乾漆像(かんしつぞう、漆製)を制作。2021年3月に東大寺へと御奉納された。
カンボジアの石の仏像制作の指導に、仏像修復家の矢野健一郎さん(左から2番目)と同行した際に撮影した、現地スタッフとの記念写真。向かって右端が重松さん。

それでは、トロフィーが完成するまでの流れを特別に公開していきます!

デザインラフをつくる

トロフィーのデザインを決めるため、頭の中に浮かんだイメージを手描きで表してもらいます。これを「ラフ」といい、制作に携わる人々の共通認識として大切にされます。

テーマは「○△□」。仏教で釈迦の骨を収める多宝塔、禅の教えを表すための絵画、日本庭園の石庭の名称にも用いられるなど、古くから日本にはなじみ深いものでした。

その○△□を、○は地球、△と□は台座にデザイン。台座部分に雑誌『サライ』のロゴマークである駱駝が歩くことで、雑誌の歴史をともに旅するようなトロフィーとなるように願いが込められています。

当初、提出してもらった2案。度重なる協議の結果、球体は地球を表現する左側、土台は正三角錐と正四角柱が合わさった右側のデザインの組み合わせに決定しました。

発泡スチロールで試作品を作る

デザインが決まると制作に移ります。トロフィーの材質は木材。一度削ると取り返しがつきません。そこで、まずは発泡スチロールで同じ大きさの試作品をつくることにしました。平面だったデザインラフが立体になると、実感が湧いてきます。

ラフではよいと思っていても、実際に同じサイズで作ると、数ミリ単位でバランスの調整を行うことになります。
手に持って見るとこのような感じ。大きすぎず小さすぎず、というサイズ感が難しいのでした。

木材を調達する

すべて手作りということで、材料の調達にも苦労がありました。というのも、木目の綺麗な角材を手に入れることが難しくなっているのです。運良く、球体は程良い大きさのものが手に入り、一安心です。角材は「北原材木店」、球体は「工房木よう大工」より購入いたしました。

購入した当初の材木の姿。木肌の色や木目の美しさに見惚れてしまいそう。角材はヒノキ材、球体はブナ材です。

見取り線を引き、台座の形を彫り出す

試作品で決めたサイズに基づき、トロフィーの台座部分を彫り出してゆきます。彫り出しには鑿を用います。木材を削る際に間違いをしないように慎重に行います。

四角柱の四面に見取り線を引いたもの。正三角錐の部分はピラミッド状なのでどれだけ内側に彫り込むかが肝心。
彫り出した後、サイズが揃っているかを並べて確認している所。最終的には自分の眼が頼りとなります。

台座に漆を塗ってゆく

木目を活かした台座にするために、漆を塗ってゆきます。年輪が描いた文様が漆を塗るとより鮮明になり、見た目の美しさはもちろん、木材そのものが丈夫になるのです。天然の摺漆と油性塗料のオイルステインで、色味を比較するための見本を作成。美しい色を追求するため、今回は上野の「渡邉商店」で購入した国産の生漆を使用することに決めました。

摺漆(左)とオイルステイン(右)では、漆の方が良い発色でした。また、ほかにも摺漆単体(上)と摺漆+ブライワックス(下)を比較。ワックスを塗ってから磨きをかけると、深い漆の色が出てくることが見て取れます。ブライワックスとは、イギリスの家具用ワックスで、木の風合いや艶を出すために用いられることが多いものです。

球体に漆を塗ってゆく

台座ができあがったところで、次は球体部分の作業に移ります。地球儀のデザインにするために、海の部分に黒漆(呂色漆)を施しました。先ほどの台座とは異なり、下地に砥石の粉末を混ぜて作る錆漆を引き、その上に黒漆を塗り、磨くことになります。工程が増え、漆を乾燥させる時間が必要なので手間も時間がかかってしまうのです。

下地に錆漆を引いた写真。このマットな色味に黒漆を塗るとどのように変化するのかが楽しみ。
錆漆に黒漆を重ね塗りした写真。漆を磨くと漆の光沢がより鮮明に表れました。台座に塗られた漆との美しさの違いを堪能できます。
黒漆を塗った後に乾燥させている場面。表面にムラができないように塗っているため、床に置いての乾燥は厳禁です。

球体に金泥を施す

球体の大陸部分は金泥(金粉を接着剤に溶いた絵具)を用いて塗ります。五大陸を正確な位置に描くために、2倍の大きさの球体を別に用意し、位置や大きさ、海岸線、湖の形などを写し取り、入念に準備をしました。

漆の上で金泥の発色を良くするために、丹の絵具で下地を作りました。右にあるのが、大陸の形を写し取るための2倍の大きさの球体。表面を方眼状に区切り、緯度と経度まで正確に写し取ったことが分かります。
大陸部分に金泥を塗り終えた写真。黒漆と金泥のコントラストが映えています。完成後は、明治時代から続く「箱義桐箱店」の桐箱に納めました。
近くで見ると、内陸に存在する湖まで忠実に、再現していることが窺えます。

「サライ大賞」のリニューアルで制作した、完全手作りのトロフィー。10年、50年、100年先も眺めていたいものを目指しました。重松さんの高い技術と努力の結晶を覚えていただけますと幸いです。


重松優志(しげまつ・ゆうし)1985年福岡県久留米市生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、同大学院美術研究科彫刻専攻を経て、同大学美術研究科文化財保存学専攻保存修復(彫刻)修士、博士課程を首席で修了。2020年より美術研究科文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室のインストラクターを担当。これまでに国内外の仏像の調査・修復を数多く手掛けている。

 

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