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文/鈴木拓也

公安委員会認定医が教える、高齢の親の運転をスムースにやめさせる秘訣|『高齢ドライバーに運転をやめさせる22の方法』

東日本高速道路(株)が実施した意識調査によれば、65歳以上の高齢ドライバーの約8割が「自分の運転に自信がある」と回答している。

一方で、「親の運転が危ないということを本人に伝えたことがあるか?」という、高齢者の子世代を対象とした設問に、約8割がイエスと答えているという。高齢者の親とその子の、運転テクニックに対する見方の違いを表す調査結果といえるだろう。

2017年の道路交通法の改正で、認知症患者の免許更新・取り消しのルールが厳格化された。しかし、免許更新時に行われる認知機能検査にパスした後で、認知機能の衰えが加速したなどの理由で、事故リスクのある運転を続けている高齢者は多いという。この場合、子として、どう対応すべきだろうか?

今回は、そうした事態に役立つヒントを網羅した書籍『高齢ドライバーに運転をやめさせる22の方法』を紹介したい。本書は、22のケーススタディを交えながら、高齢ドライバーが納得のいくかたちで免許返納してもらうまでのステップを解説した、まさにバイブルのような1冊。

本書では、例えば以下のようなケーススタディがあり、それに対する処方箋が掲載されている。

■車で買い物に出かけ精算を忘れてしまうケース

・問題点は?
認知症の妻と二人で暮らしている寅蔵さん(90)。スーパーでの買い物を含め、外出が伴う用事はすべて寅蔵さんがしている。
しかし、妻のことがストレスとなったのか、スーパーのレジで精算を忘れて万引き犯扱いされることがたびたび。娘さんが、このままでは交通事故を起こしかねないと、遠方に住む妹に車を預けるも、寅蔵さんは遠路自転車で赴き奪回してしまう。

・その対策は?
このケースで問題なのは、単に車を取り上げたら、寅蔵さんは気軽に買い物に行けなくなることだ。そこで、認知症専門医にして公安委員会認定医という著者の提案が、娘さんが「寅蔵さんの代わりに買い物をしてもらう」というもの。さらに、寅蔵さんには介護認定を受けてもらうようにもすすめた。

娘さんは寅蔵さんと話し合い、買い物のときは娘さんが運転する。その代わり、免許は返納するということに決まった。寅蔵さんは、免許返納に100%は納得していない面持ちであったが、返納特典でバスの無料券をもらい、周囲の人が生活をサポートしてくれるという安心感から、レジでの精算忘れもなくなったという

■数日前に起こした事故を忘れてしまったケース

・問題点は?
栄治さん(74)は、車を運転中に他車と接触事故を起こし、勢いで民家の壁に衝突してしまう。本人はかすり傷で済んだが、車は廃車の憂き目にあう。
数日後、栄治さんは事故を起こしたことをすっかり忘れてしまい、奥さんが止めるのもきかず、新車を購入しようとする……

・その対策は?
傍から見ても立派な認知症なのだが、事故前の主治医の診断は「アルツハイマー病の疑いあり」というもの。

著者の川畑信也医師は、認知症は確定診断するのが難しい病気で、このように曖昧なニュアンスの診断をすることは少なくないと指摘する。栄治さんは、「自分は病気ではない」と良い方に受け取ってしまい、事故を起こしてしまった。
この場合の対処法として、川畑医師がとったのは、本人に病気であることを自覚してもらい、免許返納を促すことであった。

「あなたはアルツハイマー病という病気に罹患していることを理解してください。アルツハイマー病と診断された人が運転できないことは2002年から法律で決まっていることです」と伝えました。それでも渋る様子だったので、最後に「あなたは法律を犯してでも運転するのですか?」と強めに問いかけたところ返納を約束してくれました。(本書43pより)

川畑医師によれば、「権威のある人」が客観的な証拠を見せることで、納得してもらえるケースが、アルツハイマー病患者には多く見られるという。栄治さんは、まさにこのパターンに当てはまるが、家族で説得したければ、どうすべきか。この場合は、「おじいちゃん、運転を続けていたら法律違反になっちゃうけど、いいの本当に?」という感じで、本人の意思を尊重するスタンスで問いかけるのが効果的だという。

■認知症検査をパスするも2週間後に事故を起こしたケース

・問題点は?
勝行さん(75)は、認知症検査では好成績を収め、免許の更新ができた。しかし、日頃の言動を見ている娘さんから見ると、どうもあやうい印象はぬぐい切れない。
検査から2週間後、娘さんの不安は的中する。勝行さんは、ブレーキとアクセルを踏み間違え自損事故を起こしてしまったのである。

・その対策は?
本人が運転を続ける気が満々で、認知症検査をパスしたのなら、免許の返納を家族が説得するのは難しい。

とはいえ、実は、高齢ドライバーが「自分は事故にあわない」とかたくなに思い込んでいるのは、「もしかしたら事故にあうかも」という不安の裏返しでもあるという。そのため、何かのきっかけで、自主的な免許返納へとつながることがある。

勝行さんのケースでは、事故でむち打ち症になって病院に行った際、担当医と娘さんから免許返納をすすめられたところ、あっさり納得したという。勝行さんも、心の底で不安がわだかまっていたのかもしれない。
これが、もし「だから、運転をやめた方がいいって言ったじゃない!」などという責め方をすれば、逆効果になっていたかもしれない。そうでなく、「相手に寄り添い、心配している気持ちを伝えてあげることがポイント」だと、川畑医師は諭す。

*  *  *

本書を読むと、生活上、車の使用が欠かせない高齢の親に免許返納を促す難しさがよくわかる。同時に、双方が納得できるかたちの解決策があることも、きちんと理解できる。免許返納するまでだけでなく、その後のケアやサポートについても情報が盛り込まれているので、頑固な親の態度に困ったら、本書はとても役立つはずだ。

【今日の親の健康に良い1冊】
『高齢ドライバーに運転をやめさせる22の方法』

https://www.shogakukan.co.jp/books/09310631

(川畑信也著、本体1200円+税、小学館)

『高齢ドライバーに運転をやめさせる22の方法』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

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