親に伝える勇気を兄からもらった
いじめについて兄からの言葉があったのは、次の勉強の機会だった。兄は、勉強を見ながら、サラッと「学校、もう行きたくないか?」と聞いてきたという。
「兄は、『学校が辛いなら、勉強は俺が見てやる』と言ってくれました。それに加えて、自分のことを『兄なんて、無力だ』と、学校に行かなくていいと言ってあげられる権限がないことを、私に謝ってきたんです。なんだかその姿がおかしくて笑ってしまいました。その日は、勉強をすぐに止め、どうやっていじめられていることを親に伝えようかと2人で話し合いました。そして、後日、母親には私から伝えました。親に伝える勇気を兄からもらいました」
母親は、学校を休みたいなら休んでいいという意見だった。そこから美玖さんは学校を休みがちになった。しかし、学年が上がっていじめの主犯格の相手と離れられたことで、2年生からは通えるようになる。そして、無事に中学を卒業し、高校、大学ではいじめられることなく進学することができたと振り返る。
「母親と一緒に、いじめの事実を担任に伝え、担任から直接いじめをしているグループに注意してもらうといじめがさらにエスカレートする可能性があったので、色んな先生の力を借りて、私が極力1人にならないようにだけしてもらいました。先生たちに守られているとアピールしたことで直接的ないじめはなくなり、学年の終盤には無視だけになっていましたね。
そのいじめグループの子たちとは学校にお願いしてクラスを離れさせてもらえたので、2年生からはいじめに遭うこともなく過ごすことができました」
いじめられている子どもは、家族に心配をかけたくない、いじめられているということが恥ずかしいなどの気持ちがあり、周囲に黙って我慢してしまうことが多い。美玖さんにもそんな思いがあったが、バレてしまった相手が親ではなく、きょうだいだったことに救われたという。
「ただ守られるという親と子の関係ではなく、きょうだいという対等な関係だったからこそ、兄は私の意思を無視しないと思えました。親は学校に乗り込んだり、相手の親に何かを言ったり、私のために暴走する可能性もあるじゃないですか。兄は何もできない自分を『無力』と言いましたが、私にはあのときただ聞いてくれる存在が一番必要だったと思います」
いじめに遭っていることを伝えることは相当な心の負担となる。まずは、理由を問うのではなく、肯定して話を聞くことが大切なのだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。
