子どものほうの気持ちが置いてけぼりになった

両親はともに仕事を引退する年齢となった。最初に相談されたのは、母親が仕事のときに着用していたスーツ、通勤用のカバン、アクセサリーなどの処分だった。

「ブランドのものもあり、捨てるというより、私に使わない? という内容での連絡でした。私と母は靴のサイズは違うものの、服のサイズなどは一緒だったんです。メンテナンスもちゃんとされていたので、そこから数着をもらいました。

私がいらないといった母の服やアクセサリーなどはまた綺麗に保管するんだろうと思っていたんですが、次に実家に帰省したときにはほとんどのものが処分されていました」

次に呼び出されたのは、3きょうだいの思い出の品の処分についてだった。

「卒業アルバムや学校行事の写真、学校で表彰された絵などを、『あんたの家に持って帰る? どうする?』と相談されました。私がそのまま置いておいてよと言ったら、『もう70代を超えたから、生前整理を少しずつしていっている』と。その言葉が母親から出たときには、何も返事ができなくなるほど、ショックを受けました。

両親ともにずっと忙しくしていて、2人が仕事を引退してからは認知症が出たり、うつ症状が出たらどうしようと思っていたのですが、両親は私よりもはるかに前を見ていた。なんか、自分だけが置いてけぼりにされたような気持ちになりましたね」

母親は昔の物を整理しながら、父と純子さんと一緒に思い出話に花を咲かしていた。その話に懐かしさを感じる余裕は、まだ純子さんにはないという。生前整理は、親は残される子どもの負担を軽減し、心の整理にも役立つとされているが、それはすべての人に当てはまるわけではない。子どもは親が生前整理を行うに至った気持ちを考え、親は前向きになれない子どもの気持ちに寄り添うことが大切になるだろう。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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