父親が孤独になっていくのが怖い
兄の代わりに両親を繋ぐ役割を有美さんは担おうとしていたが、その努力の甲斐もなく両親は別居することに。別居をするとなったのは父親が定年したすぐ後だった。
「母親は別居を前から計画はしていたんじゃないかなって思ってしまいます。別居期間だったら退職金が財産分与の対象にならない可能性もあるみたいなので。
私は両親が別居することを兄や弟に相談しましたが、どちらももう仕方ないといった感じで、私だけでは引き止めることもできませんでした」
両親が別居後に有美さんが頻繁に通っているのは、2人で出かけることもあったほど良好な関係だった母親のところではなく、2人では会話することもままならない関係であった父親のところだった。それは父親が認知症になってしまうことが怖かったからだという。
「母親は父より少し前に仕事を引退していましたが、友人もいて、趣味もあった。シルバーアクセサリー作りにハマっていて、場所を借りて展示会を行うなど、活動的な人なので心配はなかったんです。
一方の父親は唯一の趣味だったお酒がなくなり、元職場の人たちとも退職してから交流している感じもなくて。孤独な老人は認知症になるリスクが増えるとどこかの記事で読んでしまって、そこから頻繁に父親の様子を見に行くようになりました。私は父に趣味を見つけてほしくて、色んなことを勧めていたのですが、父に響くものはなかなか見つかりませんでした」
そんな父親は現在、有美さんの息子と一緒に釣りに行くことが趣味の1つになっている。さらに、そんな孫の影響から動画配信サービスを利用するようになり、家では映画を楽しんでいるという。さらに、有美さんの息子がつないでくれたことで有美さんと父親の関係は今が一番いいそう。
無趣味なことを悪いことのように感じて無理やり作る人も多いが、それでは続かない。趣味は焦って探したり、相手に押しつたりするものでもない。気づいたら興味を持って続けるようになっていたものが、趣味になっていく。気づいたら趣味になっていたものは、人もつないでくれるはずだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。