一家の大黒柱が亡くなったとき、遺族年金は残された家族の生活の大きな支えとなります。配偶者は、遺族年金を優先的に受給できるようになっており、特有の制度もあります。
この記事では、配偶者の遺族年金について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
遺族年金とは? 配偶者が知っておくべき基本情報
共働きの場合、遺族年金はどうなる?
配偶者に対する遺族年金の特例
まとめ
遺族年金とは? 配偶者が知っておくべき基本情報
亡くなった人の配偶者が、知っておくべきことはいろいろあります。まずは、遺族年金の仕組みと亡くなった人の条件について見ていきましょう。
遺族年金の定義と仕組み
遺族年金は、一家の働き手や年金を受け取っている人が亡くなった時に、家族に給付される年金です。公的な遺族年金は、国民年金の遺族基礎年金と遺族厚生年金です。国民年金は全国民が対象ですが、厚生年金の対象は適用事業所に雇用されていた人です。厚生年金に加入している会社員・公務員は、同時に国民年金の被保険者でもあります。
そのため、老齢年金は国民年金の老齢基礎年金に上乗せされるかたちで、老齢厚生年金が給付されるのが普通です。けれども、遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2階建てで受け取れるとは限りません。遺族年金を受け取るためには、いくつかの条件をクリアする必要があるからです。
遺族基礎年金のほうがより条件が厳しくなっているため、亡くなった人の配偶者であっても遺族厚生年金のみを受給しているケースが多く見られます。
遺族年金の受給は亡くなった人の条件による?
配偶者が遺族年金を受け取るためには、亡くなった人が次のいずれかの条件にあてはまっている必要があります。
(1)国民年金(厚生年金)の被保険者が死亡したとき
(2)老齢基礎年金(老齢厚生年金)の受給者または受給資格がある人が死亡したとき
(2) の場合は保険料納付期間と免除期間を合わせて25年間以上あることが条件になります。
さらに、遺族厚生年金の場合は次の条件が加わります。
(3)厚生年金の被保険者であった期間に初診日のある傷病で初診後5年間以内に死亡したとき
(4)1級・2級の障害厚生年金の受給者が死亡したとき
これらの要件に該当する場合、配偶者は遺族年金を受給できることになります。ただし、遺族基礎年金は子のある配偶者しか受け取れません。この場合の子とは18歳になった年度の3月31日までにある子か、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子を指します。遺族厚生年金は子のない配偶者でももらえますが、年収や、性別、年齢によって制限が設けられており、受給対象にならない人もいます。
共働きの場合、遺族年金はどうなる?
共働き家庭の場合、夫も妻も厚生年金に加入していることが一般的です。この場合の遺族年金はどうなるのでしょうか? 受給条件や支給額について見ていきましょう。
共働き家庭での遺族年金の受給条件
共働きの家庭であっても、配偶者は遺族年金を受け取ることができますが、配偶者の年収によっては受給対象にならないことがあるので注意が必要です。原則として年収850万円未満(所得655万5,000円)でなければ、遺族年金はもらえません。
ただし、配偶者が亡くなった時点での年収が高くても、近いうちに定年などで年収が850万円未満になる見込みであるときは受給が認められることもあります。遺族基礎年金は、子のある配偶者の性別・年齢は問われません。
一方で遺族厚生年金の場合、妻には年齢の要件はありませんが、夫は55歳以上でなければ受給資格は生じません。さらに55歳以上であっても、60歳までは支給停止になります。ただし、夫が遺族基礎年金の受給権者であるときは、60歳より前でも遺族厚生年金を合わせて受け取ることができます。
遺族年金の支給額と計算方法
遺族年金は、実際にいくらくらいもらえるのでしょうか。遺族基礎年金の場合は、定額となります。子のある配偶者が受け取る金額は令和6年の場合、「816,000円+子の加算額」となります。子の加算額は、条件に該当する子の1人目、2人目は234,800円、3人目以降は78,300円です。
ちなみに816,000円というのは老齢基礎年金の満額(40年間加入)に相当します。厚生年金は報酬比例の年金ですから、亡くなった人の収入によって金額は変わります。受給額は亡くなった人の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3の計算式で求められます。亡くなった人が被保険者であった場合、加入年数が25年(300月)に満たない場合もありますね。
この場合は、加入期間を300月とみなして計算されます。
配偶者に対する遺族年金の特例
遺族年金は、配偶者に対する特例がいくつかあります。子どものいない配偶者、65歳以上の配偶者についての特例を解説していきます。
子どもがいない場合の遺族年金は?
配偶者に一定の条件を満たした子がある場合は、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給することができます。けれども、子どもがいないと遺族厚生年金しか受給できません。その場合は、「中高齢寡婦加算」という制度があります。
妻が次のいずれかの条件に該当するときは、40歳から65歳になるまでの間、遺族厚生年金に612,000円が加算されます。
(1) 夫が死亡したとき、妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない場合。
(2) 40歳当時に遺族基礎年金を受け取っていた妻が、子どもが一定の年齢に達したため、遺族基礎年金を受け取れなくなった場合。
また、30歳未満の子のない妻、または30歳未満で遺族基礎年金を受け取る権利がなくなった妻の遺族厚生年金は5年間のみの給付となりますので、この点も注意しましょう。
65歳以上の配偶者が受け取る遺族年金
公的年金は一人1年金が原則ですが、遺族厚生年金の受給権者が65歳以上の場合は、自分の老齢基礎年金、老齢厚生年金も合わせて受け取ることができます。ただし、遺族厚生年金は自分の老齢厚生年金に相当する額が支給停止にななるため、老齢厚生年金を受け取っていない人と金額は同じになってしまいます。
そのため、65歳以上の配偶者に限り、遺族厚生年金の額は特例の計算式を選択することもできます。遺族厚生年金の原則の計算式(1)は、亡くなった人の老齢厚生年金の4分の3です。65歳以上の配偶者は、原則の遺族厚生年金の3分の2+自分の老齢厚生年金の2分の1という式(2)を用いることもできます。
具体例を挙げると、亡くなった夫の老齢厚生年金が月額16万円、妻の老齢厚生年金が月額10万円の場合、
(1) 原則の式は16万円×4分の3=12万円
(2) 特例の式は12万円×3分の2+10万円×2分の1=13万円
ということになります。2つの式の金額の高いほうが遺族厚生年金の額となります。
まとめ
配偶者が受け取る遺族年金は様々な条件や特例があります。妻が有利なのは不公平なのでは? と感じた男性もいるでしょう。公的年金は、専業主婦など経済基盤の弱い立場の人を優先しますので、やむを得ないことといえます。もしもの時のために、遺族年金の基本的な仕組みについて知っておくことは大切です。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com