「父親の介護をしてほしい」で長年の別居生活が終了

啓子さんは部屋から出てこない娘との時間を優先するようにした。その影響で、家は、夫と義両親、啓子さんと娘という構図になり、夫婦は別居することを選択する。

「娘は、常に義母が来るようになり、家では部屋に引きこもるようになりました。娘はご飯も部屋で取るようになったので、私は2人分の食事をお盆で持っていき、娘の部屋で一緒に食べるようにしました。娘と夫や義両親が顔を合わすのはトイレやお風呂のタイミングが重なったときだけ。それさえも嫌がった娘はトイレに極力行かないように水分を取らなくなりました。お風呂も義両親が遅くまで居座るときや夫が早く帰ってきたときには入らなくなり、お風呂に入っていないからとその次の日は学校を休むようになったんです。これではまずいと思い、夫と話し合って、私は娘とともに実家に戻りました。私も、娘の状態と、そのことも嫁いびりのネタにする義両親や夫の親族に限界だったんです」

その後、長く別居生活を続けたが、義母が亡くなったことで一度一緒に暮らすことも考えたそうだが、夫の「父親の介護をしてほしい」の一言で離婚を決意。現在は娘との2人暮らしをしている。

「別居中はお互い離婚するつもりはなく、娘のために離れるというかたちでした。いざ離れてみると、夫が止めていてくれただけかもしれませんが、義両親の気配は一切なくなりました。娘もすごく元気になったんです。

義母が亡くなったときに葬儀に参加したんですが、親族はみんな年老いて前のような威勢はなくなっていて、私に直接何かを言ってくる人はもういませんでした。夫が営んでいた親族のお店も畳んで、夫は別の仕事をしていたので、こっちに帰ってくる可能性もあるのかと思っていたんですがね。『父の介護のために帰って来てほしい』と言われて、離婚の踏ん切りがつきました」

現在23歳になる娘は、大学は啓子さんと暮らす家から通える範囲で探し、就職先も転勤のない家から通える範囲のところを選択していた。啓子さんは義両親や親族からの嫁いびりに遭っていたときに娘から言われた「お母さんのずっとそばにいてあげる」という言葉から、娘が自分から離れていかないのは自分のせいかもしれないと思っている。娘には付き合っている男性がいるが、結婚は考えていないという。

啓子さんは娘との関係を依存かもしれないと心配しているが、啓子さんに過度な干渉はなく、娘が何かを選択するときに母親の意思はない。結婚をしないという選択も娘だけの意思である。お互いの人生を心配してしまうのは普通の親子関係でもあることなのだが……。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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