大人になったからこその親との距離感
兄に話を聞いたところ、瑠璃子さんの大学の費用は父親が卒業まで全額払い続けていた。さらには、実家は父親と父親の祖父母の遺産で払い終わっており、両親の協議離婚での財産分与では実家を売却して現金化する話も出たが、瑠璃子さんが住み続けるならと父親は母親に実家を譲っていたという。
「兄は『それなのに、あの人は再婚相手と2人で暮らすんだろう』と父親のことを不憫だと言っていました。
私は兄に父親と会う機会を作ってもらって、3人で会うことになりました。私は父と2人で会うのが怖かったから、兄が地元に帰って来ている今しかないと思い、すぐに会いたいとお願いしました」
父親はすぐに会いに来てくれて、3人で食事をすることに。そこで瑠璃子さんが思っていた以上に父親が老いていたことを強く実感する。
「そんなに長期間離れていたわけじゃないのに、思っていたよりも父親は小さかったんです。きっと、一緒に住んでいたときから父親のことをちゃんと見ていなかったからだと思います。
父親は気を使って私たちにいっぱい話しかけてきてくれて、最後には『2人とお酒が飲めることがうれしい』と泣いていました。私はずっと本当に酷いことを父親にしてきたんだと思いました」
瑠璃子さんは現在結婚して、一女をもうけている。両親にとって孫となる娘のことを、父親にも母親にも会わせに行っているという。
「あれから、父親との距離感は徐々に縮まりましたが、小さい頃のようにはいきませんね。でも、大学のお金のことのお礼や、今までのことの謝罪も伝えることができました。
母親は、あれから再婚相手と離婚をしてあの家で1人で暮らしています。私の家族と同居したいと言ってきましたが、断りました。母親ともあまり距離を縮めすぎるとよくないと思って。母親が父親の悪口を言っていたとき、私だけは母親の味方でいたいと思って、父親を共通の敵にしたんです。もういくら言われてもそうはならないとは思いますが、聞くだけでも辛いですから」
親がもう一方の親の悪口を子どもに伝えると、子どもは間接的に自分まで否定されていると感じることがある。なぜなら、子どもにとって親とは自分と血のつながった大きな存在だからだ。子どもは悪口を伝えてきた親のほうにこれ以上否定されないよう、何でも聞き入れるようになるという。子どもの前で夫、妻を否定することは悪影響を及ぼす行為であることを忘れてはならない。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。