「自分のようにならないで」母親の思い

隠すことでもないと思い、父親と会うことを事前に母親に伝えていたという忍さん。父親と会った後で素直に母親に疑問をぶつけ、母親の思いを知ることになる。

「私たちが祖母の家で暮らすようになったときには祖父は他界していて、死別だと思っていました。しかし、離婚こそしないものの長く別居していたそうです。そして、離れて暮らす祖父の悪口を母親はずっと祖母から聞かされていたと言います。それがあったから祖父のことが母は大嫌いになり、祖父が病気になったときも会いに行こうとせずにそのまま死別したと。

死に際に祖父はずっと日記を書いていて、それには母親のことがたくさん書いてあったそうです。このような思いを私にしてほしくなくて、何があっても私の父親のことを悪くいうことはしないと決めていたと言います」

父親と母親の話を聞いてから、忍さんは父親に会ってはいない。しかし、許せない気持ちではないという。

「新しい家族がいることを知ったから、前の家族の子どもがあまり出しゃばってはいけないなって思いました。父の子どもは当時まだ中学生で、多感な時期でもあったので。

特にこれからも父親に会うことはしないと思います。でも、父親に何かあったら、そのときはかけつけます。大好きとは言えないけれど、嫌いでもない。自分でもよくわからないんですが、父親のことを嫌いじゃないのは、母親のおかげだと思っています」

忍さんは32歳のときに結婚して、今は祖母の家から離れた場所で夫と子どもとの3人暮らしをしている。夫の意向で祖母が亡くなって1人で生活をしている母親を近場に呼ぼうとしたが、母親はそれを固辞した。

親からもう一方の親の悪口を聞いて育った子どもは、悪口を言っていたほうの親との共依存関係になりやすいという。「悪口を言いたくなるような環境にいる親がかわいそうだから」と自分を犠牲にしてまで「自分が守ってあげよう」と親に依存してしまうのだ。悪口を一切言わなかった母親のおかげで忍さんにはそれが一切ない。忍さんは今も母親はもちろん、父親とも連絡を定期的に取っている。程よい距離感が保つことができる親子は関係が途切れることは少ないのだろう。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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