【家族のかたち】母は自由を奪い、父は与えてくれた」父親の失業で家族に残ったものとは～その２～

離婚理由になるほどの借金が父親にはあった

就職活動がうまくいかずに大学卒業後に愛佳さんはフリーターに。そのまま実家で生活をしていたなか、両親の離婚が成立して、母親が家を出て行くことになったという。離婚の理由は父親の借金。父親は事業に失敗したときに借金を抱えていた。そのことを母親から聞かされるまで愛佳さんは知らなかった。

「ショックでした。そして、自分のことがとても恥ずかしくなりました。大学に進学したいと私が言ったとき、母親は父親に相談しろと言い、父親は自分で決めなさいと言いました。そんな余裕なんてなかったはずなのに」

愛佳さんはその後正社員の仕事を見つけ、家にお金を多く入れるようにした。祖母が亡くなって２人暮らしになったときに一度父親から家を出ることを提案されるが、愛佳さんは結婚するまでずっと家に残り、多くのお金を入れていた。しかし、そのお金は一切手を付けられることなく、愛佳さんが結婚するときに父親は返してきたという。

「お給料は安かったけれど、そこから６～８万ほど家に入れるようにしていたんです。父親は多くは受け取ろうとしなかったので、生活費として３万は手で渡し、それ以外は家の光熱費などが引き落としされる口座に勝手に預金していました。

生活費として渡していたお金と、その預金に入れた分のお金の全額が入った通帳を、父親は私が結婚すると言ったときに返してきました」

愛佳さんは父親の借金から、お金の大切さを知ったと当時を振り返る。

「私は父親の事業が失敗しないまま大きくなっていたら、それこそ最悪な性格に育ったと思います。あの出来事は必要だった、と思います」

父親は借金を完済。今も仕事をしながら実家のマンションで暮らしている。当時の話を親子で振り返ったときには父親は愛佳さんに「苦労をかけた」と言うが、愛佳さんには当時は苦労ではなかったと父親に伝えているという。親は子に苦労をかけたくないというが、大切に育てられた子どもはそれを苦労ではなくいい思い出として受け取れるのだろう。

取材・文／ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社２社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。