再発後に妻が初めて買ったのはアイドルのDVD
伸一郎さんの妻は仕事をセーブして、伸一郎さんと思い出を作るかのように一緒に出かける時間を作るようになった。伸一郎さんはなんとか妻に楽しいことを見つけてほしいとの思いから、色んな場所に妻を連れ出す。そんな中で、妻がハマったのがあるアイドルだった。
「妻は音楽に興味がなかったものの、私は興味があったのでライブに連れて行ったりしていたんです。それで少し音楽に興味を持ってくれたみたいで、一度生で見たアーティストが出ている音楽番組を見るようになって、その番組に出ていたある男性アイドルグループに興味を持つようになりました」
そのアイドルは脱退などの過渡期で、なぜ脱退になったのかを調べていくうちに妻はさらに興味を持つようになる。アイドルに興味を持ち始めたことでうれしい変化があったという。
「妻はできるだけ物を少なくしたいと物をどんどん捨てていました。まるで終活をしているようでした。そんな感じだったのに、そのアイドルのDVDを、がんが再発して以来初めて買ったんです。その変化が本当にうれしかったです。
そこからファンクラブに入り、妻の年齢からするとかなり若いアイドルなのでコンサートに向けてメイクの研究をしたり、過去の曲や踊りを勉強したりしていました」
伸一郎さんの妻の薬は副作用で腹痛が起こることがあり、伸一郎さんと車で出かけることはあっても新幹線や飛行機などの公共交通を使った長時間の移動は行っていなかった。しかし、昨年コンサートのために地方にまで1人で出かけたという。そのときのコンサートグッズを含め家にはアイドルのコーナーができており、以前よりも物が増えている状態というが、伸一郎さんはそれをうれしいと語る。
推し活には、幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」や「ドーパミン」が分泌される作用があると言われている。これは、人と動物とのふれ合いを通じて医療や介護などの現場で広く活用されている「アニマルセラピー」と似た効果でもある。伸一郎さんは今妻とともにそのアイドルの推し活をしており、夫婦の関係も今一番いいと感じているという。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。