人生100年時代というが、定年退職という節目だけではなく、「75歳」前後にも、大きな“転換点”があるという。『75歳からの生き方ノート』が反響を呼ぶ楠木さんが考える、人生を最後まで楽しみ尽くす知恵や方策とは。
私はここ20年ほど、中高年の会社員を中心に取材を続けてきました。その間の世間の大きな変化のひとつは、第二、第三の人生があると誰もが気づき始めたこと。定年後にも長い人生が待っているという認識が一気に広がったのです。団塊の世代が70代半ばになったことも、その重要性に拍車をかけているのでしょう。
統計的なデータによれば、人は概ね75歳前後から、医学的、経済的、社会的に人生のステージが大きく変わります。心身の衰えにより、徐々に自立して行動することが困難になってくるからです。お金があっても有効に使えなくなり、脳の衰えによってお金の管理もできなくなる可能性があります。仕事も限定的になり、人間関係も希薄になることは避けられません。
事実、68歳の私と91歳の母親は、同じ高齢者といっても、活動できる範囲や周りからの援助の有無、欲しているものも全く異なります。加齢に応じた過ごし方の変化があることを前提に、75歳以降の生き方を考えてみる。人生100年時代において、それは定年後をどう生きるかを考えることと同じくらい、重要な課題となっているように思います。
一度切りの人生を最後まで豊かに楽しみ尽くすためには、自分自身が元気なうちに「75歳からの生き方」を考えておき、できればノートなどに記しておきたいものです。実際、私はそれを人生の「リ・スターティング(再出発)ノート」として書き続けていて、生涯、活用したいと考えています。
「自分史」の中にヒント
ちなみに、私の「リ・スターティングノート」のふたつの重要な項目である「やりたいことリスト」と「自分史シート」の具体例を、掲載しました(下画像)。私が75歳からの生き方を考えるために記しているものの一部です。「やりたいことリスト」は文字通り、年齢に応じてやりたいことを思いつくままに記しています。「自分史シート」には、時代ごとの「記憶や印象に残っている出来事」を簡略化して記載しています。
なぜ「自分史」を振り返る必要があるのか。やりたいことがなかなか思い浮かばない人は、ひとまず自分史を書いてみてほしいのです。実は、その中に将来やりたいことのヒントがたくさんあるからです。自分の歩んできた道を丹念に綴っていくと、死ぬまでに自分が何をしたいのか、何をやり残していると考えているのかが、だんだん浮き彫りになってきます。
どちらも、いきなり完璧なものを作成しようとするとうまくいきません。思いついた時にでも少しずつ書き足していけばいい。書式などにもこだわらず、ノートや手帳に記録したり、単なるメモに残したり、私の新著『75歳からの生き方ノート』の巻末にある見本に直接書き込んだり、コピーして使ったりしてもいいと思います。
また、一度、書いたことでも、見直しているうちに、すぐに実行できそうだと思い直したことがあれば、元気なうちにどんどん実行していくべきだと思います。備えあれば憂いなし。ぜひ皆さんも実践してみてください。
500人超の高齢者を取材! 『75歳からの生き方ノート』
定年後の60代から新たな仕事に挑戦したり、80代になっても現役バリバリで働いていたりするなど、第二、第三の充実した人生を歩む500人以上の高齢者に取材を敢行。人生のステージが変わる75歳以降をより豊かに生きるための指針や方策などを提案する。巻末に独自考案の「リ・スターティングノート」も収載。
撮影/イワモトアキト