本音でぶつかれば母親は本音を返してくれる

その後、まり子さんは1人暮らしを始め、母親は実家だった賃貸アパートから別のところに引っ越しをした。母親に頼ることをまり子さんは申し訳なく思い、母親から頼られもしない。別々に暮らしてからは母親からの連絡にこたえるだけになってしまったという。

「母親とどう接していいのかがわからなくなってしまったんです。何かを相談して心配をかけたくないから、何を聞かれても『大丈夫』と答えるしかできなくなっていました」

そんな母娘を結び付けたのは、母親の病気だった。母親は乳がんを患い、手術ができる状態ではあったものの、リンパへの転移もあり、しばらくは日常生活が難しくなった。病気のことで対面したとき、母親は離婚のとき以来、まり子さんの前で泣いた。

「最初、母親は電話でサラッと『すぐに死ぬとかはないから大丈夫』と伝えてきました。私が話す機会を与えられずに電話は切られたので、その足で母親の家に行きました。母親はびっくりしていましたが、顔を合わせたときには私のほうが泣いてしまって、思わず『告知を1人で聞かせてしまってごめんなさい』と謝っていました。

そこからは母親も泣いちゃって、お互いごめんなさいの言い合いみたいになりましたね。『頼ってごめん』とか『頼りなくてごめん』とか。それに対して2人ともが『そんなことない』とまた言い合っていました。興奮してしまってうろ覚えなんですが(苦笑)」

母親は手術の後の抗がん剤治療にも耐え、今は投薬を続けている。そして、まり子さんと母親は再び一緒に暮らし始めている。まり子さんの一緒暮らそうという言葉に母親は一度遠慮したそうだが、「その遠慮するところよくない」と押し通したという。

まり子さんは小さいころから母親に大切にされていたが、周囲からの目によって母親のことを大変だから頼ってはいけない存在だと植え付けられていた。母親も娘から父親を奪ってしまったという負い目があって娘に頼ることができなかったのだろう。

子どもが自立した後、親と一緒にいれる時間は思っているよりもずっと少ない。小さいころにずっと一緒にいてくれた親なら、本音でぶつかれば本音を返してくれるはず。そこに遠慮する必要も時間もないのだ。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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