かわいがってやった部下とは連絡が取れなくなった
妹や兄には子供がいるが、友紀夫さんは連絡を取っていないという。
「ヤツらが就職活動のときに、俺に話を聞きに来たんだよ。妹の娘は美大に行ってちゃらついている派手なコだし、兄貴の息子は兄貴そっくりで短絡的な俗物だ。ふたりとも、ウチの会社で俺のコネと人脈を狙っていた。加えて、自分のことを賢いと思っているから、ちょっと戒めてやったんだ」
プライトが高い大学生に、「他人の人脈に頼るな、甘えるな」と一喝すれば嫌われれるだろう。そういえば、友紀夫さんには目をかけてやった部下もいたはずだ。
「だいぶかわいがってやった部下もいたけどね。前はメールを送れば5分で返事が来たのに、今は返事さえ来ない」
その原因を筆者は人づてに聞いている。友紀夫さんはその部下に、「退職祝いの会」を主宰させたのだ。友紀夫さんは部下に一方的に日程と15人の招待客リストを送りつけた。
部下は元上司の退職祝い会などに、時間と労力を割きたくない。それでも「恩があるから」と店を予約し、友紀夫さんから渡された名簿にある15人に「必ず来てください」と伝えた。友紀夫さんは「みな金がない、飲み放題付きで1万でまとめろ」と言い、部下はかなり苦心して店と交渉した。
招待客は外部の事業者……つまり“出入りの外注さん”だ。大手企業に勤めている友紀夫さんだから付き合っていたと思しき人ばかりだ。
それなのに、友紀夫さんはパーティの直前で日程変更を要求。仕方がないので、部下は招待客に事情を話して、延期する。加えて、店には自腹でキャンセル料を払った。
「キャンセル料を払った、って嫌味を言ってくるから、“だからお前はなめられるんだ”って言ってやったんですよ。キャンセル料のひとつくらい、俺なら交渉で何とかする。それに、融通がきく店の3~4店舗を持ってこそ男だと言いたい」
そういえば、5年ほど前、友紀夫さんが主催する食事会に行ったことを思い出した。予約困難の店を予約し、10人を集めた1人5万円のフレンチの会だった。「ここに来れるのは僕のおかげだよ」「僕に感謝しなくちゃね」などと繰り返していた。個別会計ではなく、現金を用意するように言われた。
料金に比べて、ワインの質も低く、料理のポーションも小さいので、不思議に思った。宴の終わりにトイレに立った時に、友紀夫さんが店の人と会計する姿を見かけ、手元を見ると40万円とあった。10人で1人5万円なのだから50万円とあるはずだ。そう、友紀夫さんは幹事をやる代わりに、1万円余計にポケットに入れていたのだ。加えて、カードで決済し、40万円のポイントを懐にしていた。
富裕層はケチだというが、それは必要ないものにお金を使わない人が多いことからそう言われれる。友紀夫さんの場合は、そうではない。
「誰も来ない。友達も来ない。あんなに食事会をしてやったのに、誰も連絡してこない。コロナが落ち着いてからは、まったく食事会をしていないんだよ」
【ガレージにはフェラーリとハーレー、唸るほどのお金もある……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。