母親と向き合ってもらえなかった私は、今子どもと向き合えない
孫を介しての母親との和解を経て、今までで一番母親との関係は良好だった。心配していたお金の無心もなかったという。しかし、そんな関係は半年も経たずに終わってしまう。
「母親が亡くなってしまったんです。くも膜下出血で、実家で1人のときに……。やっと母と娘になれそうだったのに。
大嫌いな状態のままでいなくならなかったことが唯一の救いですかね。姉とは険悪なままだったので、葬儀のときの姉は何とも言えないような顔をしていたから」
静香さんは現在2人の子どもの子育てを継続中だが、下の息子との関係は普通なものの、上の娘との関係はうまくいっていないという。
「娘が思い通りの行動をしてくれないとイライラしてしまって、娘を避けてしまうんです。娘と向き合ってケンカをするのが怖くて……。下の子と違って、娘は言いたいことを遠慮なく言ってくるタイプなのですが、嫌われたくない思いから言い返すこともできずに、結果無視をしてしまっていました。そして、今は娘からも無視されていて、あのときの母と私の状態にそっくりなんです。やっぱり子育ての部分も遺伝するのでしょうか」
冒頭で紹介した調査では、「虐待は親から子へ連鎖すると思うか?」という質問もあり、虐待経験の有無にかかわらず「連鎖すると思う」(自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた男性:45.1%、自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた女性:47.3%、虐待を受けていない男性:45.6%、虐待を受けていない女性:57.1%)と回答した人が「連鎖するとは思わない」(自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた男性:20.3%、自身または兄弟姉妹が虐待を受けていた女性:22.3%、虐待を受けていない男性:21.4%、虐待を受けていない女性:11.8%)という回答を大きく上回っている。
いい行動、悪い行動を含め、親の影響を子どもは受けて成長する。静香さんは母親が嫌いだった過去から、子どもに嫌われたくないという思いが強いように感じる。暴力などの虐待と違い、ネグレクトは周囲に発見されにくい。静香さんのように精神的な放置を含めると実数はもっと多いだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。