帰省する度に顔がメンテナンスされていく
美貴さんは29歳のときに結婚して実家を離れる。美貴さんの兄は就職を機に実家を出ており、美貴さんの結婚で母親は一人暮らしになっていた。大型連休前に母親から呼び出されたことがあり、そのときに母親の目は赤く腫れていたという。
「ゴールデンウィーク前に有休をとって、そこで目の整形をしていたんです。『外出できないから物を買って来てほしい』と連絡があったときには体調が悪いのかなと思って心配して駆けつけたら、目がパンパンに腫れている別人のような母親がいました。私が『(目を)いじったの?』と聞いたら『腫れさえ引けばわからない程度よ』と言っていました。
他にも、実家に他人の気配がしました。ソファカバーが新しくなっていたり、母親のものじゃない携帯の充電器があったり。その人の存在が母親の整形意欲に拍車をかけてしまったのかもしれません」
子どもが母親の整形について反対するのはおかしいと思い、美貴さんは何も言わなかった。実家に訪れているだろう他人の存在についても触れることができなかったと振り返る。
「母親は働いていて、その中の稼ぎで美容医療をしているわけで、娘の私が何かをいうべきじゃないと思ったんです。本音を言うと、やめてほしかったですよ。まだヒアルロン酸でパンパンになっていく肌ぐらいだったらよかったけれど、鼻の周りをギブスで固定されて、目元や肌にアザが広がっている母親の顔を見たときは気持ち悪いと思いました。
家にいる誰かの存在については母親から何かを言われたときでいいかなって。再婚とかになると話は変わってきますが、ずっとその気配はないので触れていません」
検索で「60代 整形」と入力するとたくさんの症例写真が出てくる。美貴さんはこれらの画像を見ると「母親だけが変わっているわけじゃない」とホッとするという。いくつになっても綺麗でいたいという思いは当然なのかもしれない。帰省する度に綺麗になっていく母親を見るのは嬉しいことではあるが、別人のように変化していくことなら話は別。過剰な整形依存という状態になってしまうと、整形は「綺麗になりたい」という思いから「自分を好きになるため」といった自己満足になってしまう。母親を止める方法がない美貴さんは何も言えないことにもどかしさを感じているようだった。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。