「専業主婦の仕事を奪ったら悪い」と片付ける概念すらない夫

ゆかりさんが掃除をしている間は申し訳なさそうにする義母だったが、キレイになっていく部屋に味を占めたのか定期的にゆかりさんを呼び出すように。ベタベタして床には髪の毛が大量に落ちているトイレなど、自分が使用する可能性がある箇所は徹底的に掃除していったという。

「義母から見たら、私のことは無料で使える掃除業者のように見えていたんだと思います。最初は遠慮気味だったのに、いつからか掃除道具を用意して、『今日はここをお願いできるかしら』と言ってくるようになりました。

その中でも最悪だったのが、腰が痛くてどうしても作業ができないときに鎮痛剤を渡されたことです。今日はいいよ、ではなく痛みを消して作業をしろってことですよね。本当に私のことを掃除業者と見ているんだと思いました」

義母の行動を夫に愚痴るも効果なし。親が体調不良と嘘をついて一時実家に戻るが、一週間家を空けた後にマンションに戻ったときの汚部屋を見て、この人とやっていくのは無理かもしれないと強く思ったそう。

「あんなにキレイに保っていたのに、私が少し家を空けただけで別の家みたいに汚れていました。空気を入れ替えるという概念さえないのか、臭かったし。1人暮らしのときにはそんな片付けられないイメージがなかったので聞くと、週1で家事代行を入れていたと言います。そしてそれは実家の義母を見て真似をしたと。義母は義父に内緒で家事代行の業者を入れていたみたいなんです。そして義父が亡くなってからはその見栄を張る必要がなくなったから汚れ放題になり、今は私をその家事代行の代わりにしている。

私が『掃除をしないなら、せめて出したものは片付ける意識を持ってほしい』と伝えると、夫はへらへらしながら『専業主婦の仕事を奪うのも悪いから』と言いました。根本的に専業主婦をナメている人だとわかり、現在離婚に向けた話し合いの最中です」

親や自分の子どもに対して「価値観が似ている」と感じたことがある人もいるはず。親の家族に対する理想や思考は、無意識のうちに子どもの価値観に大きな影響を与えている。もちろんその価値観が無理やりに押しつけられたものであれば反発する子どももいる。しかし、ゆかりさんのように結婚すると妻は専業主婦になるということや、夫側の掃除は別の誰かが行うことという生活の中で当然のように行われてきたことに対しては抵抗することもなく、親の価値観からいつしか自分の価値観にすり替わっている場合も多い。

価値観は簡単に変えられるものではないが、他人に押しつけるものでもない。お互いの価値観を主張するばかりで寛容さがないままでは、ゆかりさん夫婦の結末は離婚しかないのかもしれない。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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